ウォーバーグ資本とIPOによる上場が、成長資金の確保と株価変動リスクをもたらす
カリヤンの名前が広く知られるようになると、投資銀行やプライベートエクイティ(PE)ファンドの幹部たちが次々とトリシュールを訪れるようになった。「資本市場のことはまったく知らなかった。それでも、ブランドやインフラを拡大するには外部資本が不可欠であることは認識していた」とラメシュは打ち明ける。
そんな中、世界的なPE大手ウォーバーグ・ピンカスが出資の提案を持ちかけてきた。当初、家族は慎重な姿勢を見せたものの、最終的に契約を結ぶことになった。ウォーバーグは2014年に120億ルピー(約210億円。当時の価値で約2億ドル[約314億円]相当)を出資し、3年後に50億ルピー(約88億円)を追加投資した。2回の出資により、ウォーバーグはカリヤンの株式の30%を取得した(なお、カリヤナラマンはウォーバーグとの契約前の2013年、売上と利益の急伸によってすでにビリオネアとなっていた)。
「私たちはインドの消費拡大ストーリーの中でも、とりわけ魅力的な分野としてジュエリー業界に注目していた」と、ウォーバーグ・ピンカスのムンバイ拠点のマネージングディレクター、ヴィクラム・チョーグレは語る。「この業界には多くの競合がいたが、その中でカリヤンは、特に南インドで評判が高く、いくつかの点で際立っていた。ブランドの強さ、地元と周辺市場の顧客とのつながり、そして家族の非常に長期的な視野だ」。
アナリストによれば、ウォーバーグはカリヤンにコーポレートガバナンスや財務報告の仕組みを導入させ、経営の専門性を高めるとともに、株式公開の準備を整えたという。「ウォーバーグと組んで6〜7年で成し遂げたことは、自分たちだけでやっていたら15年はかかっていたと思う」とラメシュは認めている。
しかし、カリヤンのボンベイ証券取引所(BSE)とナショナル証券取引所(NSE)への上場は、2021年の新型コロナ禍の真っただ中となり、投資家心理が冷え込む中で、新規株式公開(IPO)の初値は、公募価格を15%下回った。その後、株価は上場時から6倍以上に上昇したものの、2025年1月に記録した795ルピー(約1391円)の高値からはやや値を下げている。年初には、ある投資信託会社が同社株の保有比率を高める見返りに賄賂を受け取ったという根拠のない噂がネット上に流れ、株価が一時下落した。双方は「根拠のない悪意ある誹謗中傷だ」としてこれを全面的に否定している。
ウォーバーグ・ピンカスは上場時に一部株式を売却し、持ち株比率を約26%に引き下げた後、2024年に「カリヤンからの完全撤退を成功裏に完了した」と発表したが、取引の詳細は明らかにしていない。同社は現在、カリヤン傘下のキャンデレの株式10%を80億ルピー(約140億円)で取得する交渉を進めていると報じられている。ウォーバーグとカリヤンの双方は、この件についてコメントを控えている。
創業以来の顧客第一主義を徹底、現場の声を製品改善に活かす
カリヤンの全体戦略を統括するのはカリヤナラマンで、長男のラジェシュが在庫とテクノロジー、次男のラメシュがマーケティングとオペレーションを担当している。ラジェシュは宝石やジュエリーの調達にも関わり、新しいデザインや商品開発を直接監督している。「ここ3〜4年は、商品のラインアップを広げることに注力してきた」と彼は語る。
カリヤンの顧客を中心に置く姿勢は、創業当初から揺るいでいない。たとえば初期のころ、イヤリングのネジが数回の使用で緩むという苦情が寄せられると、ラジェシュは職人と協力して締まりのよい金具を開発した。ネックレスが衣服に引っかかるとの声には、装飾の鋭い部分を布で覆うよう職人に指示したという。カリヤンへの投資交渉を担当したウォーバーグ・ピンカスのムンバイ拠点マネージングディレクター、アニシュ・サラフは、「この家族は事業に情熱を注いでおり、すべての時間と労力を事業の拡大と改善に費やしている」と語る。
「否定的なフィードバックをもらうとむしろうれしい。問題を解決できるからだ」
ライバルのジュエリーチェーンを長年利用していた顧客のサシカラ・スリダー(54)は、18カ月前にカリヤンへ乗り換えた。「店員が本当に丁寧に対応してくれて、数えきれないほどのデザインを見せてくれた」と話す彼女は、この1年で約10回店を訪れ、息子の結婚式に向けて金のブレスレットやチェーン、ダイヤのイヤリングなど計70万ルピー(約123万円)分を購入したという。
一方、カリヤナラマンにとっては、スリダーのように目の肥えた層を含む顧客が常に最優先だ。「私は毎日最低でも5人から10人の顧客と電話で話をしている」と話す彼は、インド各地の店舗を定期的に訪れ、顧客と直接会って意見を聞くという。「否定的なフィードバックをもらうとむしろうれしい。問題を解決できるからだ」と彼は語った。


