娘への金の贈与とストリーダナ、婚礼用ジュエリー需要が牽引──市場規模は将来的に約24兆円へ拡大
カリヤンの売上の約6割を占めるのは、婚礼用ジュエリーだ。なかでも寺院の装飾に着想を得たデザインが多く、富の女神ラクシュミーや象の神ガネーシャなどヒンドゥー教の神々、あるいは宗教的なモチーフがあしらわれている。インドでは、娘に金のジュエリーを贈るのが古くからの慣習で、金の装飾品は「ストリーダナ(stree dhan)」と呼ばれる女性固有の財産として法律で認められており、夫やその家族が権利を主張することはできない。結婚式だけでなく、アクシャヤ・トリティヤやディワリなどの年中行事も、金を買うのに縁起の良い日とされている。
金が深く文化に根付くインドでは、ジュエリー市場の長期的な成長見通しは依然として明るい。投資会社ノムラの予測によれば、インドのジュエリー市場は現在の900億ドル(約14.1兆円)から、今後8年間で1500億ドル(約23.6兆円)規模に拡大する見通しだ。この見方は、共働き世帯の増加と、20代の若いインド人が人口の中で増えていることに基づいている。カリヤンにとって婚礼用ジュエリーの潜在顧客層となるこの世代の人口は、2030年までに3億9000万人に達する見通しだ。
フランチャイズで店舗網を急拡大、欧米や中東へ積極的な海外進出も推進
将来の需要を見据え、カリヤンは店舗網拡大を加速させており、今期中に90店舗を新設する計画だ。既存店の売上高は2桁成長を維持しており、9月までの四半期には16%の伸びを記録した。今後の拡大戦略の中核を担うのがフランチャイズ方式だ。
カリヤンは3年前、西インドのオーランガーバードに初のフランチャイズ運営店舗を開設した。現在では全店舗の過半数がフランチャイジーが所有する店舗となっており、同社は自社所有店舗の転換も進める方針だ。
「フランチャイズ方式の経営は、事業の複雑さを管理するのに役立つ」とICICIセキュリティーズのメノンは語る。「すべて自前で運営していては規模を拡大できないし、資金調達が難しい業界で、パートナーは資金面での支えにもなる」。
2025年6月末までの四半期では、フランチャイズ店舗がカリヤンの総売上の43%を占めた。同社によると、現在も多数の加盟希望者が待機リストに並んでいるという。
また、カリヤンは海外展開も進めている。アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、オマーンの4カ国にある38店舗と、米国の2店舗の売上は、直近の四半期で全体の約12%を占めた。米国ではニュージャージー州アイセリンとシカゴの店舗に加え、2025年中に2店舗を開設する予定で、現地の裕福なインド系コミュニティを主要な顧客層として狙っている。ヨーロッパでも展開を始めており、10月には英国で初の店舗をオープンした。
激化する競争に広告投資で対抗、オンライン市場や軽量ジュエリーを開拓
インド国内では新規顧客の開拓に向け、広告投資を強化している。過去4年間で広告宣伝費に130億ルピー(約228億円)を投じ、ボリウッド俳優のカトリーナ・カイフやジャーンヴィ・カプール、地方で絶大な人気を誇るナーガールジュナ・アッキネーニ。プラブ・ガネーシャンをブランドアンバサダーに起用している。
インドのジュエリー小売市場は競争が激しく、地域密着型の老舗から、全国展開する大手チェーンまでがひしめいている。なかでも、タタ・グループ傘下でジュエリーブランド「タニシュク」を展開するタイタンは、売上高ベースで国内最大の上場ジュエリー小売業者だ。その他にも、プネー拠点の「PNガジル・ジュエラーズ」、コルカタ拠点の「センコ・ゴールド」、チェンナイ拠点でビリオネアのG・ラジェンドランが率いる「GRTジュエラーズ」など、地域チェーンが多数存在する。
競合各社も海外進出を進めている。タニシュクは米国に7店舗を展開し、今後も拡大を予定している。ケーララ州に拠点を置くビリオネアのジョイ・アルッカスが創業した「ジョイアルッカス」、「マラバル・ゴールド&ダイヤモンズ」も、インドと中東の両市場でカリヤンと競合している。
カリヤナラマンの拡大計画のもう1つの柱が、軽量ジュエリーのオムニチャネル販売を手がける「キャンデレ(Candere)」だ。カリヤンは2017年に同社株の85%を4億ルピー(約7億円)で取得し、2024年に残りの15%を4億2000万ルピー(約7億4000万円)で買収した。キャンデレは2023年にムンバイで初の実店舗を開き、2025年9月までに全国96店舗へと拡大。年内にはさらに50店舗以上の新規出店を予定している。
カリヤン傘下となって以降、キャンデレの売上は2025年度に9倍の16億ルピー(約28億円)に達し、同社は今期中の黒字化を目指している。


