リーダーはイノベーションを望むと口にしたがるが、彼らが構築するシステムは逆のメッセージを送ることが多い。大胆なアイデアや攻めの姿勢について語る一方で、誰かが長年続いているプロセスに異議を唱えたり、変わったことを提案したりすると、彼らの口調は一変する。イノベーションは良いことだが、慣れ親しんだ状況を壊さないという前提なら、というメッセージを送っているのだ。この複雑なシグナルが企業内の進歩を妨げる。人々はリーダーの言葉ではなく、リーダーが何に報いるかに耳を傾ける。そして、リーダーがコンプライアンスを好むようになると、好奇心や試行錯誤は徐々に消えていく。
「言うは易し」の背景
イノベーションを支持するのは、戦略について語っているときには簡単だが、新しい習慣を生み出す必要があるときはずっと難しい。何を「成功」とみなすのか、どの組織にも暗黙のルールがある。そのルールが安全性に報いるものである場合、イノベーションについて語ることに終始することになる。従業員はリーダーの言葉よりも行動を見て経営陣の優先順位に従うことが調査で明らかになっている。
リスクを冒すことが罰せられ、ルールに従うことが賞賛されるようになると、誰も素晴らしいアイデアを出さなくなる。リーダーは、認めることが強力なシグナルであることを忘れがちだ。予測可能性の維持が好まれると、人は可能性を追求しなくなる。イノベーションに関心がなくなるのではなく、リスクを冒す価値がないことを学ぶのだ。
コンプライアンス重視で起こること
ひとたびコンプライアンスが報われる文化になると集団思考になる。会議は「完全合意」に終始し、小さなプロセス改善すら提案されなくなる。組織は表面的にはイノベーションを望んでいるように見えても、停滞しているのが実情となる。心理学者たちは、人は失敗よりも社会的拒絶を恐れて黙るようになることを知っている。ビジネスにおいては、優秀な従業員が型破りな考えを自分の中に留めておくことを学ぶことを意味する。やがてチームは創造力を失い、会社は先進的になるのではなく受身的になる。米写真用品メーカーのKodak(コダック)がデジタル写真を発明したにもかかわらずフィルムにしがみついたのは、無知ではなく、コンプライアンスの心地よさのためだ。ビジネスにおいて最も危険な文言である「いつもこのやり方でやってきた」はそのような環境においてうまく機能する。
イノベーションを促進するには
リーダーは、イノベーションを促進するために体制を放棄する必要はない。ただ、何が好まれるかを再考する必要がある。イノベーションは好奇心から生まれる。完璧に実行されたアイデアだけを褒めるのではなく、リーダーは良い質問や試行を価値あるものとして認めることができる。それらはうまくいくかどうかはわからないが、誰も提案していない何かを解決する方法について多くの情報を提供する。
誰かが「なぜこのように行うのか」と質問したとき、リーダーはその回答が苛立ちではなく純粋に関心からのものであるようにする必要がある。そのような状況でリーダーがどう対処するかを人は見ている。忍耐を持って好奇心に向き合うと、たとえささやかな認知でも、より良い思考への扉を開くことができる。リーダーはまた、業績に関する会話に探求と学習を重視していることを盛り込むようにすることもできる。コンプライアンスだけでなく、成長とイニシアチブを評価されると分かれば、従業員は違った考え方をするようになる。



