優良企業でも見られる障壁
多くのリーダーは自分はイノベーションに対してオープンだと信じているが、知らず知らずのうちにイノベーションを妨げるシグナルを送っている。障壁の1つは、十分な情報を持っていないと思われることへの恐れだ。自信を持っているように見えなければならないというプレッシャーを感じているリーダーは、権威を守るために質問を封じることがある。
もう1つの障壁は習慣だ。あるプロセスが1度うまくいくと、それが常にうまくいくと思い込んでしまいがちだ。その思い込みはやがて、心地よい現状を維持するという方針になる。職場文化は人々があらゆる交流から受け取る微妙な合図を送る。誰かが新しいアイデアを提案して呆れ顔や沈黙に直面すると、好奇心は危険だというメッセージを受け取る。このような瞬間が文化を形成し、イノベーションを阻害する。というのも、従業員に荒波を立てるなと伝えるからだ。
好奇心が鍵を握る理由
好奇心がイノベーションを促進するのは、それが新しい方法でアイデアを模索し、観察し、つなげようとする衝動だからだ。好奇心を持つことが奨励されると、人は他の人の目には制約と映るところを探求し、可能性を見出す。好奇心は脳の報酬系を活性化し、学習に対する内発的動機を生み出すことが認知科学の研究で示されている。たとえ問題が複雑だったり、進捗が遅かったりしても、好奇心があることで人は長い時間注力できる。好奇心を歓迎するチームでは、多少の意見の相違がある議論は個人的なものではなく生産的なものになる。イノベーションは英雄的なブレークスルーではなく、意味のある変化につながる一貫した探求になる。
会社の姿勢は従業員の言動に現れる
自社の文化がイノベーションを支持しているかどうかは、日々の言動に注目することでわかる。従業員は会議で発言するだろうか、それとも上下関係に従うだろうか。ミスについてオープンに議論されているだろうか、それとも隠されているだろうか。リーダーは答えと同じくらい頻繁に質問をしているだろうか。こうした小さな指標から、好奇心が奨励されているのか、それとも罰せられているのかがわかる。
イノベーションを重視する文化では、「もし〜だったらどうなるか」「〜したらどうだろうか」といった文言が含まれる会話が頻繁に交わされる。そうした会話でリーダーたちは「それはうまくいかないだろう」ではなく「もっと聞かせて」と応じる。こうした習慣が絶えずあれば、好奇心は創造性につながり、創造性はイノベーションにつながる。
成長する組織にするためにできること
変化は、誰がどんなことをしたときに賞賛されるのかを意識することから始まる。リーダーは体制を維持する人を評価するのか、それとも体制を改善する人を評価するのか。この2つは互いに排他的なものではない。誰かが時間を割いてアイデアを探求したとき、たとえそれがうまくいかなかったとしても、リーダーはその努力を認めることが重要だ。イノベーションは、異なった考え方をしてもよいのだと感じられる中で築かれる。
リーダーは、従業員が目にしたい行動を手本として見せることで、従業員を勇気づけることができる。また、答えがわからないことを質問し、何か驚いたことがあればそれを認めるべきだ。リーダーがオープンな姿勢を示すことで、従業員も同様の行動を取れるようになる。そのような瞬間が時間の経過とともに積み重なり、会社の文化は恐れではなく、探求へと自然に向かい始める。
人は常に評価されるものに従う。そして、リーダーが指示するよりも耳を傾けるとき、イノベーションは極めて重要なものになり、発展する。好奇心が強さとみなされれば、ミスは恥ずべきことではなく、単なる情報というシグナルが送られる。コンプライアンスは当面秩序を保つかもしれないが、次の大きなアイデアを生み出すことはない。成長する組織とは、質問しやすい環境を作り、試行を奨励し、口先だけでなく真にイノベーションを求める組織だ。


