「精緻な計画」がもたらす、偽りの安心感
計画を立てることで、その後の柔軟性が損なわれることの大きな理由は、精緻な計画が、偽りの安心感をもたらす点にある。リーダーは、明確な答えを出すことで評価される。詳細なタイムラインや、マイルストーンを記した図表、予測モデルなどは、きちんとしているように見え、安心感を生み出す。だが、こうした安心感は幻想であることが多い。
新しいシグナルが無視される原因になる
世界的な組織心理学者カール・ワイクが提唱する「センスメイキング」理論に関する研究では、急速に変化する環境において、人は、決まった情報が載っている地図よりも、その時々で変化するシグナルを解釈する枠組みを必要とすることが判明している。
計画が緻密すぎると、新しいシグナルが「計画と一致しない」という理由で無視される原因になる。これによって、状況が変わった際に、企業がそのことに気づきにくくなってしまう。
サンクコスト(埋没費用)効果
厳密すぎる計画は、感情面での罠が生まれる要因にもなる。チームメンバーは、自らのリソースを注ぎ込んで計画を作成することで、その計画に愛着を感じるようになり、計画を手放すことを失敗のように感じてしまう。これはまさに「サンクコスト(埋没費用)効果」の生きた例だ。人はある事柄について、それまでに費やした労力が多ければ多いほど、やめることが難しくなる。たとえエビデンスが、途中でやめることが妥当だと示しても、そうすることが難しくなってしまうのだ。
リーダーとして、調整するタイミングをプロセスに組み込む
リーダーがとれる対策としては、戦略サイクルのなかに、定期的に一時休止するポイントを組み込んでおくことが挙げられる。このポイントが、チーム内で「計画を立ててから、何が変わったか? 調整しなければならないことは何か?」と問いかけるタイミングになる。こうした一時休止ポイントがプロセスの一部として捉えられれば、見直しは「当然やるべきこと」になり、「誤りを認めること」とは扱われなくなるはずだ。
さらにリーダーは、配下のチームに対して、計画だけを提案するよう求めてはいけない。計画の根拠となった前提条件、またその前提条件も変わり得るものとして示すよう要求すべきだ。そうすれば、チームとの対話の中で、計画を完成品として扱うことなく、変化し得る条件に焦点を合わせることができる。これによってチームメンバーも、計画を固定的な既成事実ではなく、変化し続けるシステムとして捉える習慣が身に付くはずだ。


