2017年から男子プロテニスのシーズンクライマックスを飾る大会「Nitto ATP Finals」のタイトルパートナーを務める日東電工。2025年に協賛継続を決定した背景にはさまざまな分野において世界トップを目指すという企業戦略と、選手たちの挑戦への共感があった。
さらに、2023年から始動した「Nitto ATP Finals Torino Green Project」では、スポーツ協賛を通じ、開催地のCO2排出量削減に向けた取り組みを展開。Nittoが掲げる2030年ありたい姿である「なくてはならないESGトップ企業」に向けた、グローバルスポーツ協賛がもたらす価値と可能性について、ブランドコミュニケーションの最前線を担う藤田直子が語る。
2030年ありたい姿として、「なくてはならないESGトップ企業」を掲げる日東電工(以下、Nitto)。Global Niche Top™戦略とNitto流のESG戦略を掛け合わせることで社会課題の解決と経済価値の創造の両立を実現し、ESGトップ企業を目指している同社は、1918年の創業以来培ってきた基幹技術をベースに、表示デバイスに使用される偏光板などの光学材料、回路基板、工業用テープ、医療用関連製品・サービスなどさまざまな製品をグローバルに提供している。
その着実な成長を支えてきたのが、Nittoが打ち出すGlobal Niche Top™戦略。変化しながら成長する市場を見極め、そこにNitto固有の技術や製品を投入し、グローバルシェアNO.1を狙う、独自の差別化戦略を打ち出している。
そんなNittoが2017年から協賛を続け、タイトルパートナーを務めているのが、男子プロテニスのシーズンクライマックスを飾る大会「Nitto ATP Finals」だ。
2030年までの協賛継続も決定しているほか、2023年からは、大会の開催地であるイタリア・トリノ市、ATP(男子プロテニス協会)及びFITP(イタリアテニスパデル協会)との連携で、開催地のCO2排出量削減に向けた共創活動「Torino Green Project」も展開。Nittoの国内外向けブランディング施策として、プロジェクトをリードするのが、経営・ESG戦略本部 ブランドコミュニケーション部長の藤田直子(以下、藤田)だ。
国際テニス大会の協賛を決めた背景には、“チャレンジする人を応援する”というNittoの揺るぎない企業文化があったという。
「Nittoの事業成長を支えてきたのは、100年以上の歴史の中で、外部環境は変われども、変化こそチャンスと捉え、チャレンジする文化です。挑戦を続けることを何よりも大事にしたい、という思いからスポーツ協賛にも力を入れ、2017年までは13年間にわたり大阪国際女子マラソンの協賛を継続してきました」
海外の売上比率が上がっていたなかで、グローバルにおけるブランド価値を高めていくために、これからどんな活動を広げていくべきか。模索していたタイミングにATP(男子プロテニス協会)から話をもらったことが、今日まで続く協賛につながっていった。
「テニスは、ファン層にビジネスにおける意思決定層の含有率が高いという競技特性があり、BtoB企業のブランド戦略として親和性があると感じました。ATPツアーの世界的な人気の高さはもちろん、トップを目指し絶え間ない挑戦を続ける選手の姿に、Nittoの大事にしている価値観との共鳴を強く感じ、タイトルパートナーを務めることを決めました」
以来9年間の活動を通して、企業認知度の向上などブランディング戦略の上で一定の成果を感じているという。
「各国での認知度はゆっくりですが、協賛当初より上がっていますし、見本市などグローバルのイベントでは『ATP FinalsのあのNittoですよね』と声をかけられる機会が年々増えています。ただ、伸びしろはまだまだ。国内外の人材採用の観点でも、認知度向上に向けて中長期的な投資は不可欠です。2030年までの協賛継続を決めた背景には、チャレンジを応援しチャレンジを続ける企業としてのメッセージを世界に発信し続けていきたいという思いがあります」
持続可能な社会への具体的アクション

協賛と並行してNittoが力を入れてきたのが、2023年からスタートした「Torino Green Project」。
トリノ市、ATP及びFITPとの連携で、開催地のCO2排出量削減に向けて具体的なアクションに取り組んできた。大会会場に隣接する公園での植樹活動や、トリノ市を走るトラム(路面電車)の駅の屋根緑化、大会会場で設置した植物の壁(The Green Wall)を市内小学校へ移設するなど、さまざまな活動を展開。
大会運営では、Nittoグループが製造する生分解性不織布を使ったナプキンを会場内のフードコートで配布しており、「トリノ市民や、会場を訪れる世界中のテニスファン、選手関係者の皆さんに地球環境に目を向ける機会を提供していきたい」と藤田は話す。

さらに、今年は新たな取り組みとして、大気中のCO2吸収を促進する塗料を使用した「Green Art Wall」を制作。地元のアーティストと小児がん患者支援団体「U.G.I. ODV」の子どもたちとのコラボレーションで作品を作りあげた。この「Green Art Wall」は、トリノ市の空気浄化に貢献しながら、Nitto ATP Finals がトリノの街へ贈るサステナビリティのシンボルとして、今後も街に残り続けていく。

Nittoが大会を通じて大切にしてきた取り組みについて、藤田はこのように語る。
「Nitto ATP Finalsでは、前回開催地のロンドンのときから、病気と闘う子どもたちとそのご家族を観戦に招待しています。選手とともにコートに入場するマスコットキッズも務めてもらっており、試合後にわざわざお礼を言いに来てくれたり、『どうやったらNittoで働けるの?』と聞いてくれたりする子たちがいるんです。その真剣な眼差しに私たちのほうが勇気づけられ、『この活動を続けていかなくては』という原動力の一つになっています」
協賛を"自分ごと"に――全社プロジェクトが生む一体感
Nitto ATP Finalsの協賛活動は、社外向けのブランディング戦略だけではなく、従業員を巻き込むインナーコミュニケーションとしても意義が大きいと藤田は話す。
毎年「全社プロジェクト」としてメンバーを公募し、さまざまな職種・年代の社員20数名ほどでチームを組成。社内向けにも大会をどう盛り上げ、どう情報発信していくか施策を練るほか、開催地でのファンブースでサステナビリティ活動をどう伝えるべきかなども議論していくという。
また、開催地であるヨーロッパをはじめとして、世界各地域で推進チームを結成。世界的なスポーツ協賛の機会を活用して、インナーブランディングにもグローバルで取り組み、Nittoグループ全体で一体感を醸成しながら強い組織作りにもつなげている。
「大会期間中には、Nittoグループの各工場の食堂でイタリアや出場選手にちなんだメニューを出したり、クイズやゲームなど、遊び心のある取り組みも進めてます。プロジェクトは毎年7月にキックオフとなり、12月まで続くので、メンバー間の仲間意識もどんどん高まっていきます。普段の業務とは違った視点で会社のことを考え、お客様と対峙する機会が、事業に向き合う新たなモチベーションになっていくことを期待しています」
藤田自身も、現地で選手やファンコミュニティに触れ合うなかで、ESGを経営戦略の中心に据えて推進していく重要性を改めて感じているという。
「スポーツを楽しむためには地球環境が健全に維持されていなくてはいけません。異常気象によって体を動かすことさえできない環境では、スポーツの発展を含めた豊かな文化は育っていかない。Nittoがスポーツ協賛を続けることでそんな大事な気づきも発信することができれば、より良い未来の環境づくりに、微力ながら貢献できるのではないかと考えています」
日東電工
https://www.nitto.com/jp/ja/
ふじた・なおこ◎経営・ESG戦略本部 ブランドコミュニケーション部長。2003年 日東電工株式会社 入社、営業総務を経て2005年より営業支援部で販売促進を担当。国内外の展示会運営やWEBサイト構築など、販促施策を推進。2022年にインナーコミュニケーションチームのグループ長に着任、Nitto ATP Finals協賛活動プロジェクトに参画。2024年より現職。



