使い捨てカップを提案し、ウォルマートやコストコ展開で売上約154億円達成
Oats Overnightの売上は、2021年までに2300万ドル(約35億円)に達し、テイトは事業を食料品店向けの販売に拡大しようと考え始めた。「最終的にこの会社のブランドをできるだけ多くの家庭に届けたい。そのためには小売市場に進出するしかない」と彼は語る。ただし、テレビ通販のように目に見える形で商品を説明できない状況で、消費者に商品を理解してもらうのは簡単ではないとわかっていた。
「店頭に並べることにはかなりの懸念があった」とテイトは言う。「この商品が“スプーンを使わないタイプ”であることがおそらく理解されず、ボウルに移して食べる人が出るだろうと思っていた」。
そこで彼は、小売業者に新しいアイデアを持ちかけた。それは、あらかじめオートミールを入れたカップに、水やミルクを注ぐためのラインを印字した使い捨てタイプのカップ入り製品だ。このプロダクトを全米規模で最初に取り扱った大手チェーンはウェグマンズで、その後2021年にホールフーズ、2022年にはウォルマートが続いた。2023年までに売上は1億ドル(約154億円)に到達し、そのうち小売販売が全体の3割を占めた。
Oats Overnightはその後、ターゲット、コストコ、サムズ・クラブのほか、15の地域チェーンにも販路を拡大している。ウェグマンズのグロサリー部門バイヤー、ライアン・デコリーは「Oats Overnightのシェイクは非常に好調に売れており、最近は新たに3種類のフレーバーを追加した」と話している。
約100億円の資金調達、新工場を稼働しついに黒字化を達成
Oats Overnightは、事業拡大のためこれまでに約6500万ドル(約100億円)を調達している。そのうち3500万ドル(約54億円)は、2024年7月、評価額2億3000万ドル(約354億円)で実施された調達ラウンドによる。主導したのは、シェイク・シャックの創業者ダニー・マイヤーが共同設立した投資会社Enlightened Hospitality Investmentsだ(同社はこれまで、Culture Pop、Joe Coffee Company、Chip City Cookiesといった消費者ブランドにも出資してきた)。このラウンドには、複数のVCやプライベート・エクイティファンドが参加しており、その中には2021年の200万ドル(約3億1000万円)のシードラウンドに出資したImpatient Venturesも含まれていた。
Impatient Venturesの創業者ジャック・ドレイファスは、「最初からブライアン(テイト)がOats Overnightの成長に“全力を賭けていた”のは明らかだった」と語る。「初期の打ち合わせの中で、もし初回ラウンドで必要な資金を調達できなければ、『自宅を売ってでも事業を続けるつもりだ』と彼が何気なく口にしたのを覚えている」。
自らもポーカープレイヤーであるドレイファスは、テイトと“勝負への情熱”を共有していたという。「資金が尽きかけたときもあったし、小売との契約が思うように進まない時期もあった。だが彼は諦めず、常に道を探し続け、乗り越えてきた」と彼は振り返る。
テイトは、最新の資金調達で得た1000万ドル(約15億4000万円)を投じて、オハイオ州ウェストチェスター・タウンシップに延べ床面積約2万8800平方メートルの新施設を建設した。2024年9月に稼働を開始したこの施設は、同社の生産能力を4倍に高め、平均出荷日数を2日短縮し、1箱あたりの配送コストを3ドル(約462円)以上削減できる見込みだという。
テイトによれば、Oats Overnightは今年ついに黒字化を達成し、今後しばらくは追加の資金調達を行う予定はない。残る資金は、設備や施設の改善、そして在庫の生産に充てる方針だ。
TikTok返金キャンペーンで、高リスク高リターン施策に挑む
一方でテイトは、「ビジネスの成長のためにリスクを取る」という“ギャンブラー精神”を今も失っていない。2022年、彼はZ世代のインフルエンサーに報酬を支払い、TikTok上で「Oats Overnightを“だまして”みよう」と呼びかけるキャンペーンを展開した。内容は、同社の返金保証制度を利用して商品を試すよう促すものだった。「成功の確率が20%しかなくても、見返りが10倍ならそのリスクは常に取るべきなんだ」と彼は言う。
当時、Oats Overnightの返金率はわずか1%に過ぎなかった。テイトは、たとえその数字が2倍や3倍に増えたとしても、新規顧客獲得コストを十分に下げられれば利益が出ると計算していた。実際、キャンペーン開始直後は狙いどおりに動いた。「scam us(だましてみろ)」という広告を出して数日で、新規顧客獲得コストは40%低下したのだ。だがその後、返金申請が止まらなくなった。
大失敗しても「勝ちは勝ち」、新たなチャンスを狙う
「最終的には完全にやられた」とテイトは肩をすくめ、まるでポーカーで悪い手を引いたかのように笑って話す。返金率は最終的に500%も跳ね上がり、まだ黒字化していなかった同社は6桁ドル(数十万ドル[数千万円])規模の損失を計上。キャンペーンは打ち切らざるを得なかった。「最後になって『本当に“だまされた”のはこっちの方だ』と気づいた」と彼は苦笑する。
それでも、テイトは後悔していない。「今でもあれは“勝ち”だと思っているし、今も同じようなチャンスを探している」と彼は語った。


