起業家

2025.11.13 15:00

元プロポーカー、評価額「540億円」の朝食ブランドを築いた「勝負への情熱」

ZikG / Shutterstock.com

年商約308億円の朝食ブランドに成長、「どう“生活習慣の一部”として定着させるか、そこが勝負」

しかし消費者の反応は上々だった。今年のOats Overnightの売上高は2億ドル(約308億円)を突破する見込みで、フォーブスは、まだ黒字化に苦戦している同社の企業価値が3億5000万ドル(約539億円)に達したと見積もっている。

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テイトは当初からOats OvernightをD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドとして立ち上げ、2年ほどの間に定期購入型のサブスクリプションモデルを導入した。「このビジネスではリテンション(継続率)がすべてだ」とテイトは言う。「つまり、どうやって顧客にこの商品を“生活習慣の一部”として定着させるか、そこが勝負なんだ」。

同社はサイト訪問者に対し、初回注文時に自社のロゴ入りシェイカーを無料で提供し、25%の割引を一度だけ適用することで、定期購入を促している。16食分入りの箱の通常価格は60ドル(約9240円)だが、新規登録者は45ドル(約6930円)で購入できる。現在のOats OvernightのEC売上の9割を、30万人のアクティブな定期購入者が占めている。

「この成長率はかなりの健闘だといえる。なぜならパンデミック以降、パッケージ食品の販売量は全体的に伸び悩んでいるからだ」。そう述べるのは、モーニングスターで朝食大手ゼネラル・ミルズを担当するシニア消費財アナリストのクリストファー・イントンだ。ただし、彼はOats Overnightの価格設定と直販モデルに懸念を示す。

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「この販売チャネルで利益を出すのは極めて難しい」とイントンは言う。配送コストや顧客獲得コストの上昇が理由だ。「便利さにプレミアムを払う層は確かに一定数いるが、袋入りのオートミールは数ドル(数百円)で買える。特に今のように消費者が出費を控える環境では、それが長期的な成長の足かせになる可能性がある」。

ポーカーの教訓をD2Cに応用、最重要指標は顧客の継続率

テイトによれば、同社にとって最大の支出は年間「数千万ドル(数十億円)」にのぼるマーケティング費用だという。「ポーカーからオートミールに転身して得た大きな教訓の1つは、“自分がコントロールできる要素に集中すること”なんだ」と彼は語る。Oats Overnightにとってそれは、顧客の継続率を高めるために「製品を最適化すること」を意味した。

「配合を少し変えたり、砂糖や塩を増やしたりすると、顧客の継続率が8〜10%上がることがあった」と彼は説明する。

こうしてテイトは製品開発に力を入れ、5年間でフレーバーを3種類から30種類へと拡大。定期購入者だけが選べる限定フレーバーも30種類用意した。彼は、自宅のキッチンで配合を試していた段階から、13人の研究開発チームを抱えるまでに事業を拡大したが、製造と出荷の管理は今も自社で行っている。また、出荷業務は現在も母親が担当しているという。

継続率60%超えの秘訣は、顧客と開発する新フレーバー

テイトはまた、将来の新商品づくりに定期購入者を参加させている。「多くの企業は、テーブルを囲んで試飲し、一口で評価するような仕組みをとっている。だが、うちの製品はすべて、実際の顧客と一緒に開発しているんだ」と彼は述べている。

2020年、Oats Overnightは定期購入者に新フレーバーのサンプルを送り、フィードバックを求める取り組みを始めた。寄せられた意見の多くは、参加者10万人の会員制フェイスブックグループで共有されている。「このプロセスを通じて、非常にユニークなデータを大量に得られるんだ」とテイトは語る。

そして、あるフレーバーが定期購入者から好評を得てサイトで販売されるようになると、チームはその商品の「顧客継続率」を全フレーバーと比較して順位づけする。パフォーマンスが最も低いフレーバーを特定し、配合を調整しながら数値が改善するかを検証していく。

テイトは、Oats Overnightの顧客継続率が60%以上に達しているのはこのプロセスのおかげだと考えている(ここでいう継続率とは、2回以上注文した顧客の割合を指す)。「私たちは、これまでのどんな消費財ブランドよりも、顧客に近い存在になっている」と彼は語る。

ポーカーから学んだもう1つの“定石”

500人の従業員全員に会社の理念を信じてもらうため、テイトはポーカーから学んだもう1つの“定石”を導入した──それは、全員が「当事者」として関わることだ。Oats Overnightでは、オペレーション責任者から製造ラインのスタッフまで全員がコンテンツ制作に携わっている。ブランドのSNSには、食品科学者が新フレーバーを試す様子や、倉庫スタッフが注文品を梱包する姿などが頻繁に登場する。

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翻訳=上田裕資

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