起業家

2025.11.13 15:00

元プロポーカー、評価額「540億円」の朝食ブランドを築いた「勝負への情熱」

ZikG / Shutterstock.com

ZikG / Shutterstock.com

米国では、オートミールを「温かいお粥(ポリッジ)」として食べるのが伝統的、かつ一般的だ。その市場に対し、あえて「冷たいまま飲むシェイク」という革新的なスタイルで挑んだ起業家がいる。かつて、プロポーカーとして約1000万ドル(約15億4000万円)超を稼いだブライアン・テイトだ。

彼はその賞金を元手に朝食ブランド「Oats Overnight(オーツ・オーバーナイト)」を創業。D2C(直販)とサブスクリプション戦略を武器に、同社を年商2億ドル(約308億円。1ドル=154円換算)を超えるブランドへと成長させた。テイトは、ポーカーの世界で培ったリスク感覚を、急成長するヘルシー志向の食品ビジネスにどう転用したのだろうか。

プロポーカーの賞金約15億4000万円を「オートミール」に賭ける

事業を立ち上げる前のテイトは、20代のほとんどをプロのポーカープレイヤーとして過ごしていた。ラスベガスのカジノで掛け金の上限がないノーリミットの大会に出場したり、全米各地のプライベートゲームで現金を賭けたりしていたのだ。29歳で引退するまでに、彼は約1000万ドル(約15億4000万円)の賞金を稼いでいた。そこで彼は、次に挑むべき「新たな山」を探し始めた。

「ポーカーではもう到達点まで来ていた。次の挑戦が欲しかった」とテイトは振り返る。

仲間を驚かせたのは、彼が目を向けたのが“食べ物”だったことだ。テイトは当時、長時間の勝負を支えるために食べていたオートミールに注目したのだった。「私の情熱の対象は、“効率性”だ」と38歳になったテイトは語る。「ポーカーでは、あちこちのゲームを飛び回って、1日12時間以上もテーブルに座っている。きちんと食事を摂ることがとても重要なんだ」。

「自分だけで楽しむのはもったいない。だから、世の中に広めようと決めた」

2016年、彼は自身でつくっていたオートミールシェイクの「市販版」を探したが、どこにも見つからなかった。そこで50万ドル(約7700万円)の賞金を投じて、アリゾナ州テンピに製造施設を設立した。こうしてOats Overnightが誕生した。

「こんなに美味しいものが商品化されていないのは本当に驚きだった。自分だけで楽しむのはもったいないと思った。だから、世の中に広めようと決めた」と、現在フェニックスを拠点とするOats OvernightのCEOで、50%をわずかに下回る同社株を保有するテイトは語る。

創業から最初の3年間は、ポーカーで得た賞金だけで事業を支える

彼は、最初の投資で製造機器をリースし、初回の在庫を生産し、仲間の給与を支払った。最初のチームは文字通り「友人と家族」だった。製造を担当したのはポーカー仲間の2人で、出荷を担当したのは母親のダイアン・テイトだ。「1日に500個作れたら大喜びだった」と母親は当時を振り返る。テイトは自身で製品を車のトランクに積んで、郵便局に運んだという。創業から最初の3年間、彼はポーカーで得た賞金だけで事業を支えた。

「最初に聞いたときは、本気で頭がおかしくなったと思った」

2016年創業のOats Overnightが最初に売り出したのは、チョコレート、ストロベリー、グリーンアップルの3種類のフレーバーだった。この製品は、1食あたり20グラムのたんぱく質とフレーバーを加えたオートミールを牛乳と一緒にシェイクし、冷蔵庫で一晩寝かせ、翌朝そのまま食べるというコンセプトで、昔ながらのオートミールを、手軽さで再び広めようとした試みだった。

「最初に聞いたときは、本気で頭がおかしくなったと思った」と語るのは、長年のポーカー仲間で、現在は同社のECディレクターを務めるトーマス・ケラーだ。「冷たいオートミールを食べる人なんて聞いたことがなかったからね」。

次ページ > 年商約308億円の朝食ブランドに成長、「どう“生活習慣の一部”として定着させるか、そこが勝負」

翻訳=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事