アート

2025.11.13 12:30

国際芸術祭「あいち 2025」で、あいまと現実を見る|アートな数字

(左)名古屋市内・愛知芸術文化センター10Fのエントランスには、インドネシアの作家、ムルヤナが編み物で表現した“理想の海”が広がる。(右)昭和モダニズム建築の巨匠、谷口吉郎が手がけた愛知県陶磁美術館には、“黒人女性のあつかわれ方”を問い続けるシモーヌ・リーの3作品が並ぶ。
(左)名古屋市内・愛知芸術文化センター10Fのエントランスには、インドネシアの作家、ムルヤナが編み物で表現した“理想の海”が広がる。(右)昭和モダニズム建築の巨匠、谷口吉郎が手がけた愛知県陶磁美術館には、“黒人女性のあつかわれ方”を問い続けるシモーヌ・リーの3作品が並ぶ。

名古屋から少し離れた瀬戸は「せともの」の名産地。愛知県陶磁美術館の館長曰く、そこには「1000万年以上前から堆積した良質な陶土があり、世界有数の粘土と珪砂の産地として、陶磁器文化や関連産業を支えてきた」。日常で地質に目を向ける機会はないが、館の庭にハイブ・アースの作品として掘られた穴に水が溜まっているのを見て、そのきめ細やかさと、それゆえ異なる地域の植生を知る。

谷口吉郎建築の館内に、注目が高まる陶芸の花形、シモーヌ・リーの作品を見てトレンドを感じ、まちなかでは、閉口した学校や旧銭湯という会場のユニークさを楽しむと同時に少子高齢化を目撃する。

(左)西條茜の新作「シーシュポスの柘榴」。会期中には作品を用いたパフォーマンスもおこなわれる。(右)アルゼンチン出身のアドリアン・ビシャル・ロハスは、瀬戸市の閉校した学校の1フロアに異空間を創出した。
(左)西條茜の新作「シーシュポスの柘榴」。会期中には作品を用いたパフォーマンスもおこなわれる。(右)アルゼンチン出身のアドリアン・ビシャル・ロハスは、瀬戸市の閉校した学校の1フロアに異空間を創出した。

芸術祭のテーマ「灰と薔薇のあいまに」は、現代アラブ世界を代表する詩人アドニスの一節から引いている。第3次中東戦争後の惨禍を嘆き、同時に、破壊の先に希望を見据えたものだが、アル・カシミは戦争の背景にある問題を今に重ね、灰か薔薇かの二項論ではなく、「あいま」に目を向けることを強調する。

それは、複雑に絡み合う現実だ。「あいち」ではその現実の多くが、視覚的に表現されている。人間がつくりだした分類や枠組みが状況を悪化させているのではないか、と突きつけられるが、それらを受け止め、解きほぐし、思考していく先に、来るべき未来がある。

映画も本もさまざまな気づきをくれるが、1日、2日でこれだけ世界の現実を身近に感じられる機会は、ほかにはなかなかないのではないだろうか。

(左)佐々木類は、地元の人々と採取した植物をガラスに閉じ込め、閉業した瀬戸市の旧銭湯に幻想的な空間を生み出した。(右)映像インスタレーションでも出展しているバゼル・アッバス & ルアン・アブ=ラーメは、バラリ、ハイカル、ジュルムッドを招き、名古屋のクラブで新作のパフォーマティブ・インスタレーション「Enemy of the Sun」を披露した。
(左)佐々木類は、地元の人々と採取した植物をガラスに閉じ込め、閉業した瀬戸市の旧銭湯に幻想的な空間を生み出した。(右)映像インスタレーションでも出展しているバゼル・アッバス & ルアン・アブ=ラーメは、バラリ、ハイカル、ジュルムッドを招き、名古屋のクラブで新作のパフォーマティブ・インスタレーション「Enemy of the Sun」を披露した。

文=鈴木奈央 書=根本充康

この記事は 「Forbes JAPAN 2025年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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