名古屋から少し離れた瀬戸は「せともの」の名産地。愛知県陶磁美術館の館長曰く、そこには「1000万年以上前から堆積した良質な陶土があり、世界有数の粘土と珪砂の産地として、陶磁器文化や関連産業を支えてきた」。日常で地質に目を向ける機会はないが、館の庭にハイブ・アースの作品として掘られた穴に水が溜まっているのを見て、そのきめ細やかさと、それゆえ異なる地域の植生を知る。
谷口吉郎建築の館内に、注目が高まる陶芸の花形、シモーヌ・リーの作品を見てトレンドを感じ、まちなかでは、閉口した学校や旧銭湯という会場のユニークさを楽しむと同時に少子高齢化を目撃する。
芸術祭のテーマ「灰と薔薇のあいまに」は、現代アラブ世界を代表する詩人アドニスの一節から引いている。第3次中東戦争後の惨禍を嘆き、同時に、破壊の先に希望を見据えたものだが、アル・カシミは戦争の背景にある問題を今に重ね、灰か薔薇かの二項論ではなく、「あいま」に目を向けることを強調する。
それは、複雑に絡み合う現実だ。「あいち」ではその現実の多くが、視覚的に表現されている。人間がつくりだした分類や枠組みが状況を悪化させているのではないか、と突きつけられるが、それらを受け止め、解きほぐし、思考していく先に、来るべき未来がある。
映画も本もさまざまな気づきをくれるが、1日、2日でこれだけ世界の現実を身近に感じられる機会は、ほかにはなかなかないのではないだろうか。

