北米

2025.11.13 15:30

3.1兆円をどう活かす? フェイスブック創業者夫妻のデータと合理性に基づく寄付戦略

カーリー・ツナ 2014年撮影(Photo by Marvin Joseph/The Washington Post via Getty Images)

子どもの命の価値、数理モデルの限界と「倫理的要素」

マラリア・コンソーシアムのCEO、ジェームズ・ティベンダラナは、データやエビデンス、透明性を重視する点こそがOpen Philanthropyのアプローチを際立たせていると語る。「彼らから求められたデータの量は膨大だった。支援対象となる介入策は、費用対効果が高くなければならないからだ」とティベンダラナは振り返る。

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もっとも、この数理的アプローチにも限界はある。ティベンダラナが2015年に資金提供の交渉を始めた当初、彼は「幼い子ども向けのマラリア治療薬も、大人向けの蚊帳と同じ価値がある」と説得しなければならなかった。なぜなら、GiveWellのモデルでは、仕事に就かない子どもは経済的価値が大人ほど高くないとみなされていたからだ。最終的にGiveWellは、「倫理的要素(moral factor)」を評価モデルに加え、マラリア・コンソーシアムは現在、3億7000万回分のマラリア治療薬と殺虫剤処理済み蚊帳3200万張を配布している。

同様に、エビデンス・アクションの最高成長責任者であるダニエル・ベイヤーも、Open Philanthropyが資金提供を決める前に、専門家への数十時間に及ぶ調査と聞き取りを行っていたことを明かす。それでも、バングラデシュの季節労働移民支援プログラムのように成果が上がらず、中止される事業もあるという。

「何かがうまくいかなかったとしても、責められるような気持ちにはならない。軌道修正すればいいだけだ」と語るのは、ヘレン・ケラー・インターナショナルでパートナーシップ担当上級副社長を務めるショーン・ベイカーだ。同団体では、ツナとモスコビッツの資金によってビタミンA補給プログラムが行われ、子どもの死亡率の低下に貢献している。

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Open Philanthropyにとって、グローバルヘルス分野は現在も最大の資金配分先だ。しかし、同団体が10年前にGiveWellから独立した理由の一部は、ツナの言葉を借りれば、「より実験的で、まだ実証されていない取り組みに焦点を当てるため」だった。

AIの安全性とインパクト投資を軸に、寄付ポートフォリオを最適化する戦略

ここで再び話をAIの安全性に戻そう。Open Philanthropyがこの分野で最大の支援先としているのは、AIやバイオテクノロジーなどの新興技術が国家安全保障に与える影響を研究する機関の「Center for Security and Emerging Technology」や米国防総省との関係で知られる非営利の政策研究機関「ランド研究所」、そしてAIの安全性と人間の価値観との整合性研究に特化した非営利団体「FAR.AI(ファー・エーアイ)」だ。これらの組織はいずれも、AI政策への影響力を高め、先進的なAIモデルの安全性を守ることを目的としている。

「多くのAI企業は、法的に求められる以上の安全対策に投資しており、その点は高く評価されるべきだ。しかし同時に、世界が本当に必要としている安全投資の水準には、いずれの企業もまったく届いていない」と語るのは、FAR.AIのCEOであるアダム・グリーブだ。同団体は、Open Philanthropyからの5900万ドル(約91億円)の助成金を活用し、OpenAIやアンソロピック、グーグルなどが開発するAIモデルの安全性向上を支援している。

Open Philanthropyの資金を受ける組織の中には、今年だけで少なくとも300万ドルをロビイング活動に費やした団体もあり、その金額はOpenAIやアンソロピックが支出した額とほぼ同水準だ。Open Philanthropy自身も、今年は四半期あたり約11万ドル(約1700万円)をロビイングに拠出している。

とはいえ、AI分野に注がれる資金と注目が増す中でもツナは、「寄付にはポートフォリオ的なアプローチを取っている」と強調する。これは、直接的な寄付や政策提言、投資といったあらゆる手段を組み合わせ、幅広い分野に資金を配分していることを意味する。

グッド・ベンチャーズ財団のインパクト投資の多くは、医薬品開発向けだが、主な保有銘柄には初の投資先となったImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)のほか、TSMC(台湾積体電路製造)やASMLなどの半導体企業、エヌビディア、マイクロソフトなどが含まれる。

「進歩と安全は対立するものではない。もし私の考え方をひと言で表すなら、それは“どれか1つに絞るものではない”ということだ」とツナは語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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