北米

2025.11.13 15:30

3.1兆円をどう活かす? フェイスブック創業者夫妻のデータと合理性に基づく寄付戦略

カーリー・ツナ 2014年撮影(Photo by Marvin Joseph/The Washington Post via Getty Images)

カーリー・ツナの歩みと、データ重視の寄付判断基準

ミネソタ州で生まれ、インディアナ州エバンズビルで医師の両親に育てられたツナは、「両親は私をできるだけ良い公立学校に通わせるために引っ越しを重ねた。彼らは教育こそが人生の成功の鍵だと、本気で信じていた」と語る。その後、イェール大学で政治学を専攻した彼女は、学生新聞で記者として活動。2008年にビジネス分野の記者の職を得た。

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ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に勤務したツナは、テクノロジー企業やカリフォルニア州の経済をテーマとしていたが、記者としての初任給はごくわずかなものだったという。そんな彼女に転機をもたらしたのは、同僚の記者で現在はテック系メディアThe InformationのCEOを務めるジェシカ・レッシンだった。2009年、レッシンは共通の友人だったモスコビッツを当時24歳のツナに紹介した。「私たちは、あの日以来、ほとんど毎日一緒に過ごしている」と彼女は述べている。

「重要性」「軽視されている度合い」「解決の可能性」

2011年、2人の関係が本格化すると、ツナは記者の仕事を辞め、慈善活動に専念した。元記者としての最初の1歩は、1年がかりで数百人の専門家に話を聞くことだった。彼らの多くは、「自分が情熱を注げる分野に資金を出すべき」と助言したが、彼女はそのアドバイスを採用しなかった。ツナの見方はこうだ。「もし寄付者の多くが比較的裕福で健康な環境の出身なら、慈善活動は最も困っている人々を助ける最大のチャンスを見逃すことになる」

それでもこの1年間の聞き取りは大きな成果をもたらした。彼女は資金を投入すべき課題を選ぶための3つの基準である「重要性」「軽視されている度合い」「解決の可能性」を明確にした。彼女は、それらの観点から、その課題の解決がどれほど多くの人に影響を与えるのか、その課題に取り組む他の人々がどの程度いるのか、寄付によって実際に進展を生む見込みがあるのかを判断している。

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イスラム教徒の父とメソジスト系キリスト教徒の母のもとで育ち、ユダヤ教徒の男性(モスコビッツ)と結婚したツナは現在、仏教の瞑想に取り組んでおり、自身が巨大な富にアクセス可能であることを「偶然の結果」だと考えている。そのため彼女は、「自分は精神的な動機づけを感じており、できるだけ多くの人に恩恵をもたらすために、理性的かつ数理的な方法で寄付を行うよう努めている」と語る。また、そのアプローチは、彼女が個人的に関心を持っていても、乳がん研究のようにすでに十分な資金が集まっている分野とは無関係であることが多いという。

「救われた人生の年数」で測定、合理性を突き詰める「効果的利他主義」へ

こうした考え方が、彼女を効果的利他主義へと導いた。この思想は、できるだけ多くの人に最大の利益をもたらすため、膨大なデータとエビデンスを活用して費用対効果を測定するもので、しばしば「救われた人生の年数」で評価される。ツナが関心を寄せるのは、どの非営利団体に資金を出すかではなく、マラリアや飲料水、寄生虫駆除といった複数の課題の中で、どれを優先すべきかだという。それは、彼女の言葉で言えば「慈善家が下す最も重要な決断」だ。

「障害調整生命年(DALY)」指標と倫理要素を踏まえ、命の価値を数値で比較する仕組み

彼女の財団が行う寄付の中で最も規模が大きく、長く続く支援分野である「グローバルヘルス分野の助成」では、Open Philanthropyがしばしば簡易的な数値評価を行う。そこで重視されるのが、特定の助成によって何年分の人間の命が救われるかを測る尺度である「障害調整生命年(DALY)」と呼ばれる指標だ。助成が採択されるためには、1ドルあたりの効果が「年収5万ドル(約770万円)の米国人に2000ドル(約31万円)を渡すのと同等の価値」を生み出すことが求められる。

そして、極端な例として、「もし目標が“命を救うこと”なら、サハラ以南のアフリカで活動する平均的なマラリア対策団体のほうが、米国できわめて珍しい病気に取り組む優れた団体よりも多くの命を救うことになる」と、Open Philanthropyでグローバルヘルスとウェルビーイング部門を率いるオーティス・リード常務理事は述べている。

ツナとモスコビッツが行うこうしたグローバルヘルス関連の助成の主要な受取先には、これまでの受取額の総額が3億700万ドル(約473億円)の「マラリア・コンソーシアム」や、寄生虫駆除や安全な飲料水などの確保に計2億600万ドル(約317億円)を受け取った「エビデンス・アクション」、主にビタミンA補給プログラム向けに1億300万ドル(約159億円)を受け取ったヘレン・ケラー・インターナショナルなどが含まれる。

次ページ > 子どもの命の価値、数理モデルの限界と「倫理的要素」

翻訳=上田裕資

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