外国人材との協働が進む今、必要なのは、労働力を“補う”発想ではなく、ともに価値を生み出す「共創」の視点だ。
住宅・金融・就労支援など、外国人の暮らしを多面的に支えるグローバルトラストネットワークスは、その最前線に立つ企業として、2025年10月「GTN Beyond Borders Summit」を開催。異なる文化や価値観が交わることで生まれる新たなイノベーションの可能性を、企業と社会の両視点から探った。
「GTN Beyond Borders Summit」では、総合MCに、キャスターとして社会課題に向き合い続けてきたホラン千秋を迎え、「外国人雇用と定着=経営戦略」という視座を起点に、国際人材をイノベーションの原動力へと位置づけるための方策を、3つのセッションを通じて提示した。
開会にあたり、主催者代表としてグローバルトラストネットワークス(以下、GTN)代表取締役社長 後藤裕幸(以下、後藤)が登壇。参加者への感謝の言葉とともに、日本社会における外国人の位置づけが大きく変化したことを語った。
「私がGTNを起業した20年ほど前、外国人は日本社会のなかで“支援の対象”として語られることも少なくありませんでした。しかし今では状況が一変し、日本社会の新しい活力を共に生み出す存在となっています。このサミットで得た知見が、皆様の明日からの事業展開における確かなプラスとなる一日になることを願っております」
なお、本稿では、GTN後藤とモルガン・スタンレーMUFG 証券 シニア・アドバイザーであり、東京理科大学 上席特任教授を務めるロバート・フェルドマン(以下、フェルドマン)が登壇したSESSION 1「外国人材受け入れによるイノベーションシナリオ」について取り上げる。
90万人減の現実──経済成長を支える3つの柱とは
SESSION 1では、日本が直面する人口減少という「規模の現実」から始まった。
日本ではいま、年間約90万人が減少している。後藤はその数字の重みを「熊本県熊本市の人口を上回り、九州全体で見れば佐賀県1県分に相当するほど」と示し、この流れが続けば、労働力不足を通じて経済への深刻な影響は避けられないと語った。
そうしたなかで、外国人労働力をどう位置づけ、どのように日本経済の活力につなげていくのか。
フェルドマンは、この課題を労働力データから分析する。
「人口減少は約90万人ですが、労働力ベースで見ると毎年およそ60万人が減少しています。もし日本が国際社会における地位を維持するという目標を掲げるなら、一定の経済成長は不可欠です。仮に年率1%の成長を目指すとすれば、この減少を外国人材の受け入れと設備投資で補うしかありません」
だが、現状ではその対応が十分ではないとフェルドマンは言う。
「最近の推計では、外国人労働者の増加は年間20万人程度にとどまっています。残る40万人分を補うだけの大規模な設備投資が行われているかというと、現状はそうなっていません」
この不足分を国内で補う難しさについて、後藤は「日本は、65歳から69歳の就労率が50%を超え、女性の就業率もアメリカよりも高いなど、国内労働力は既に限界近くまで投下されている。この状況下で、外国人材の受け入れ抜きに労働力のギャップを埋めることは極めて困難だ」と語った。
フェルドマンは、課題解決のためには戦略的なバランスが必要であると結論づける。
「設備投資を行ったとしても、専門性の高い人材など、新しい設備を運用する労働力が必要になります。この観点から、『設備投資』『国内人材の育成・活用』、そして『外国人労働者』という3つの要素のバランスこそが、日本の経済にとって最も大きな論点になると考えています」
多様性が企業の利益を拡張する
議論は、外国人材の受け入れ規模から、その活用が企業にもたらす価値へと焦点を移した。テーマは「多様性が生むイノベーション」だ。
後藤は、複数の国際的な調査を引用し、多様性が企業の収益性に直接影響することをデータで示した。
「マッキンゼーの調査によると、性別の多様性を重視する企業と、そうでない企業の利益の差が21%以上あり、人種や民族の多様性を尊重する企業は33%の利益を上げています。また、ボストン・コンサルティング・グループの調査では、多様性のある経営陣をもつ企業はイノベーション収益が17%高くなるという結果が報告されています」
これは、多様性そのものが経済効果をもたらす経営戦略であることを示唆している。では、なぜ多様性がイノベーションを生むのか。
フェルドマンは、そのメカニズムをこう説明する。
「良いチームをつくるには、全員が均等に発言することに加え、外部から情報を持ち込むことが重要です。チームの視野が内向きだったり、リーダーが外部との関係を持たなかったりすると、新しい知見は共有されません。異なる背景をもつメンバーが異なる視点から情報をもち寄り、それを共有することで、チームは自然と新しい発想を生み出すようになる。多様性こそがイノベーションの原点なのです」
そしてセッションは、外国人活用における長年の障壁であった言語の問題へと進む。
「日本がグローバル化を進めるうえで、常に立ちはだかるのが言語の壁です。過去30年を国際競争力という観点で見ると、日本はいいサービスや技術をもっているのに世界になかなか進出しない。国内で十分というような感覚がありました」(後藤)
「たしかにそうでしたね。ですが今は、AIが瞬時に高精度な翻訳を可能にしています。これは大きな進歩です。法律文書のように難解な表現を含む内容でも、正確に日本語に翻訳することができます。こうした技術の発展によって、言語の壁は確実に低くなり、日本の魅力や国際的な競争力は自然と高まっていくでしょう」(フェルドマン)
多様性がもたらす創造性と、AI技術が切り開く新しい共創の可能性。これらの融合が、日本企業の進化を後押しすることを実感できるセッションとなった。
「AI × 外国人材」がもたらす新しい地方創生モデル
最後のセッションは「地方創生へのロードマップ」をテーマに、外国人材がもたらす価値を地方でどのように実現するか、その具体的な戦略が語られた。
フェルドマンはまず、地方が抱える人口減少と高齢化という構造的課題を指摘。旧来の対策を超える新たな方向性として「IT・AIの活用」と「外国人材の積極的な受け入れ」を組み合わせた戦略を提示した。
「地方が真の活性化を果たすためには、AIを活用して定型的な業務を効率化し、その結果として人間にしかできない創造性や文化交流、高度なホスピタリティといった分野への需要を生み出すことが重要です。例えば、外国出身で多様な感性をもつ旅行プランナーが新しいツアーを企画するとします。すると、その体験や情報は彼らのネットワークを通じて瞬時に世界へ広がっていく。それが地域のブランド価値を高め、観光客や新たな投資を呼び込み、外国人材が地域経済の循環に貢献する好ましい流れを生み出していくことでしょう」
こうした戦略の成功例として、フェルドマンはカナダ・トロントの事例を挙げる。
「トロントでは数年前、優秀な外国人材を積極的に受け入れる政策を導入しました。この取り組みにより若い世代の労働力が増え、高齢化社会における年金財政が大幅に改善しています。現在、現地の年金基金は潤沢な資金を保有し、若い世代がもたらす資本蓄積が地域への投資を可能にしている。それがさらなる経済成長のエンジンとなっています」
後藤も地方で起きている変化を紹介した。
「熊本では半導体関連企業の進出により、食堂の時給が一時3,500円に達するなど、新卒の給与水準も上昇し、地域経済が活気づいています。また、大分県の別府では、APU(立命館アジア太平洋大学)の学生がアルバイトを通じて街に若いエネルギーをもたらし、SNSでの発信が新たな観光需要を生んでいる。こうした事例を見ると、ダイバーシティの推進こそが地方にとって大きなチャンスになると感じます」

一方で、地方創生を持続的な動きとして定着させるには、制度面での改善も欠かせない。フェルドマンは「外国人の就労期間を5年などと区切るような制度のままでは、優秀な人材は集まらない。永住を視野に入れ、長期的に安心して暮らせる環境を整備することが、人材の意欲を引き出すポイントになる」と指摘する。
加えて、「外国人が日本で働き、生活を始める際に必要となる各種の行政手続きを、1つのオンライン窓口で完結できるようにすることも重要です。こうしたシステム化が、外国人の定着支援を大きく後押しするでしょう」と続けた。
「GTN Beyond Borders Summit」におけるSESSION 1では、外国人材を労働力としてではなく、イノベーションを生み出す共創の担い手としてとらえる重要性を改めて学ぶことができた。
日本企業は今、異なる価値観を経営に生かし、新たな市場や発想を創出する力が求められている。多様性を経営の中核に据え、組織変革の原動力とできる企業が、これからの日本経済を牽引していくことだろう。
ロバート・フェルドマン◎モルガン・スタンレーMUFG 証券 シニア・アドバイザー。東京理科大学 上席特任教授。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得後、1998年にモルガン・スタンレー証券(現・モルガン・スタンレーMUFG証券)入社。2017年より現職。東京海上ホールディングス社外取締役、日米友好基金審議員などを歴任。17〜23年、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)にて教授。現在は上席特任教授。
ごとう ひろゆき◎グローバルトラストネットワークス 代表取締役社長。中央大学在学中にITベンチャーを起業後、アジア市場向けコンサルティング会社を設立・売却。2006年、外国人専門の生活支援企業グローバルトラストネットワークスを創業。「外国人が日本に来てよかったをカタチに」を掲げ、住居・通信・金融・人材など多角的なサービスで社会課題の解決に取り組む。



