海の30%を守る挑戦、世界の次の一歩
世界の科学者たちは、2030年までに少なくとも海の30%を保護する必要があると指摘しています。しかし現状では、正式に保護されているのはわずか8%にとどまっています。
この課題に取り組むのが、2020年に発足した「ブルー・ネイチャー・アライアンス」です。世界50カ国で活動を展開し、これまでに日本の国土の約24倍にあたる9百万平方キロメートル以上の海洋保護を支援してきました。
このアライアンスは、海洋生物多様性にとって特に重要な海域を優先的に保全しています。例えば、太平洋クロマグロの希少な産卵場であるフィリピン海台では、地域政府と連携して持続的な漁業管理の体制づくりを進めています。
日本ともゆかりの深いハワイ諸島北西部の海底火山郡「天皇海山列」の保全にも協力しています。この深海の山脈は、かつて日本の海洋探査チームが初めて地図化した場所であり、いまも多様な生態系を育む貴重な海域として知られています。
こうした取り組みが示すのは、グローバルな連携の重要性。その象徴ともいえるのが、2025年9月に国連総会で60か国の批准を達成し、来年1月の発効に向けて動き出した「公海条約」です。国境を越えた海域を保全するための初の国際的な枠組みが整い、世界は新たなステージに踏み出しました。
海洋文化と歴史をもつ日本にとって、これは他国の取り組みを支援するだけでなく、自らの知見と技術を通じて世界の海洋保全をリードする絶好の機会です。同時に、貿易や気候外交の分野でも、より持続可能な未来を描く力を発揮できるタイミングでもあります。
環境保全か、経済成長か?
海が抱える課題は広大で複雑ですが、私はそのなかにこそ大きな可能性があると感じています。最も効果的な解決策には、いくつかの共通点があります。
それは、地域のリーダーシップを中心に据え、資源と意思決定の主導権を地域の人々に戻すこと。テクノロジーによる革新と、生態系のしくみに関する知見を組み合わせること。そして、自然を共に歩む“パートナー”として扱う姿勢です。
何より重要なのは、「環境保全か、経済成長か」という二者択一の考え方を手放すことです。この二つは両立するどころか、互いを高め合う関係にあります。持続可能な取り組みは雇用を生み、食の安全を守り、社会のレジリエンスを高めます。つまりサステナビリティとは、対立構造ではなく、共に繁栄するための戦略なのです。
海の課題に向き合うためには、これらの解決策を実証段階から政策へ、地域の取り組みから世界規模の仕組みへと発展させることが求められます。日本も、こうした取り組みに投資し、育てていくことで、海の健全性と人々の豊かさが共に息づく未来を創ることができるはずです。


