気候変動に挑む、太平洋のレジリエンス戦略
多くの太平洋諸国にとって、マグロは単なる食料ではなく、経済そのものです。漁業によって得られる収益は、学校や診療所、インフラ整備など、地域社会の基盤を支えています。しかし、海水温の上昇により、マグロの群れは次第に公海へと移動しつつあり、地域の漁業者の生計だけでなく、国家財政をも脅かしています。
この課題に対応するため、コンサベーション・インターナショナルはパートナー団体とともに、国際的な気候基金からの資金を活用する総額1億5600万ドル規模の地域プログラム「太平洋島嶼国マグロ気候適応プログラム」の立ち上げを支援しました。気候モデルを用いてマグロの回遊ルートを把握し、各国政府がより公正な漁業協定を結べるよう支援しています。沿岸沖には固定式の集魚装置が設置され、マグロを誘引することで燃料コストの抑制やサンゴ礁への漁圧軽減が期待されています。
こうした地域主導の取り組みは、海洋資源を守りながら経済の安定にもつながる重要なモデルです。日本もまた、科学、テクノロジー、そして外交の強みを生かしながら、地域のリーダーシップを支援することで、太平洋全体の発展を後押しし、自国の食の安全保障と長期的な経済的利益を守ることができるはずです。
地域発のアイデアが、海の未来を変えていく
太平洋やアジア各地では、テクノロジーと地域のリーダーシップを組み合わせ、海の健康を取り戻しながら人々の暮らしを向上させる実践的なイノベーションが生まれています。
太平洋のマグロ漁船では、Wi-Fiの導入が船上の生活を一変させています。これまで乗組員は何カ月も港に戻らず、家族と連絡を取る手段も、問題を報告する仕組みもありませんでした。そこに、実証プロジェクトとして衛星インターネットが導入されたことで、メッセージの送受信や遠隔医療、相談窓口へのアクセスが可能になり、世界でも最も複雑なサプライチェーンの一つに透明性と人間らしい労働環境が生まれつつあります。
インドネシアの沿岸では、かつてエビ養殖がマングローブ林の破壊を招き、村を守る自然の防波堤が失われていましたが、新しいアプローチが経済成長と環境再生の両立を証明しつつあります。
生産者たちは、水質をリアルタイムで監視するセンサーや浄化システムを活用しながら、養殖池の周囲にマングローブ林を再生しています。再生されたマングローブ林は排水を浄化し、炭素を蓄え、嵐から海岸を守ります。さらに、プロジェクト報告によれば、1ヘクタールあたりのエビの収穫量は30トンから50トンへと増加。テクノロジーと自然が協働し、劣化した環境が再び豊かな生態系へと変貌を遂げています。
ハワイ・ワイキキでは、イノベーションがサンゴ礁に新たな生命を吹き込んでいます。米国政府の助成を受けたREEFrameプロジェクトでは、自然のサンゴの形を模した海洋適合素材の3Dプリント構造を海底に設置。地元の学校や住民も教育や観測に参加し、技術的な取り組みを地域ぐるみの運動へと発展させています。


