フォーブスアジアは11月3日、急速に変化するアジアのビジネスと経済の最前線で活躍する20人の女性リーダーに焦点を当てた「フォーブスが選ぶ『アジアで影響力のあるビジネスウーマン20人』2025年版」を公開した。
ここに選ばれた十数の国と地域の先駆者は、データセンターや半導体、レアアースといった分野の企業を率い、人工知能(AI)や先端技術のブームを牽引している。また、家族経営の老舗企業を再生させ、不動産やホスピタリティ、小売、スポーツ用品などの事業を新たな成長軌道へと導いている経営者もいる。
20人のうち半数以上は、銀行や消費財、輸送などの分野で実績を積んだプロ経営者だ。3人は第1世代の起業家で、そのうちの1人は2社のユニコーン企業を立ち上げている。
この年次リストは、アジア全域の幅広い産業で存在感を発揮する女性によって構成される、フォーブスアジアのネットワークを広げるものとなっている。
マイベル・V・アラゴン=ゴビオ(52歳/フィリピン)
ロビンソンズ・ランド社長兼CEO
フィリピンの大手財閥JGサミットの不動産部門であるロビンソンズ・ランドは今年2月、マイベル・V・アラゴン=ゴビオを社長兼CEOに任命し、新たな1歩を踏み出した。1980年に故ジョン・ゴコンウェイが創業し、現在は息子のランス・ゴコンウェイが会長を務める同社にとって、彼女は初の女性CEOであり、創業家以外から登用された初の経営トップでもある。ランスはSNS上でアラゴン=ゴビオを「この仕事に最もふさわしい人だ」と評した。
1993年にロビンソンズ・ランドへ入社した彼女は、重役補佐としてキャリアをスタートさせ、物流事業を統括したほか、住宅・オフィス開発も手がけてきた。アラゴン=ゴビオは今年5月、5年間で総額1250億ペソ(約2500億円。1ペソ=2円換算)を投じる成長計画を発表した。これは2030年までに純利益を2倍の250億ペソ(約500億円)に引き上げ、運営するショッピングモールを現在の55施設から69施設へ拡大。オフィス賃貸面積を50%増の120万平方メートルに拡張する計画だ。ホテル客室数も25%増の5300室へ、物流拠点は2倍に拡充し、新たな複合開発エリアも建設する。経営工学の学位を持つ彼女は、アントワープ大学で国際ビジネスの学位を取得した。
サリーナ・チャー(50歳/マレーシア)
サンウェイ副会長
不動産からヘルスケアまで幅広い事業を手がけるマレーシアの大手財閥サンウェイ・グループは今年1月、創業者ジェフリー・チャーの娘であるサリーナ・チャーを副会長に任命した。新入社員時代にコピー取りを手伝っていた彼女は、30年に及ぶキャリアを経てこの地位に上りつめ、時価総額86億ドル(約1.3兆円。1ドル=154円換算)の同社の海外展開を牽引している。
近年、サンウェイはシンガポールでの事業拡大を加速させており、今年9月には、同社として過去最大となる買収案件として不動産デベロッパーのMCLランドを約7億4000万シンガポールドル(約851億円。1シンガポールドル=115円換算)で取得する契約を締結した。かつてサンウェイの不動産部門マネージングディレクターを務めたチャーは、「当社の戦略に合致し、長期的な価値を生み出せるプロジェクトであれば、買収を検討する」と述べている。
サンウェイの業績は堅調で、2024年の税引後利益は56%増の12億リンギット(約444億円。1リンギット=37円換算)に達し、売上高は79億リンギット(約2923億円)を記録した。創業から50年を迎えたサンウェイについて、父ジェフリーは「これほどの企業になるとは想像もしなかった」と語ったという。チャーはいま、「次の50年を見据えた強固な成長計画の策定」に注力している。
チョン・ユギョン(53歳/韓国)
新世界会長
売上規模で韓国最大の百貨店チェーン「新世界(シンセゲ)」を率いる鄭有慶(チョン・ユギョン)は昨年、家族が経営する上場企業の同社を再び成長軌道に戻すという使命を担って会長に就任した。しかし、同社が今年3月に開示した2024年の純利益は前年比約40%減の約1億8700万ウォン(約2100万円。1ウォン=0.11円換算)で、売上高はほぼ横ばいの66億ウォン(約7億3000万円)にとどまった。背景には、価格の引き下げや店舗の改装で新たな顧客を引きつけようとしたことが挙げられる。ただし、投資家は新世界のKビューティー分野への注力を好感し、株価はここ1年で約20%上昇した。
チョンは、自社のコスメ小売店「Chicor(シコール)」の品揃えを、輸入品中心から韓国ブランド重視へと転換し、急成長する市場を開拓した。今年6月には、江南の高級商業エリアに新たな旗艦店をオープンし、店内の棚スペースの半分以上をKビューティー商品で満たしている。
チョンは、1991年にサムスングループから分離した新世界グループの総会長であり、サムスン創業者イ・ビョンチョルの末娘でもあるイ・ミョンヒの一人娘だ。今年4月、母のイ・ミョンヒは保有する新世界グループ株10%をすべて娘に譲渡し、チョンの持株比率は29%に上昇した。
百貨店事業の社長を10年間務めたチョンが会長に昇格した今回の人事は、彼女の兄のチョン・ヨンジンがディスカウントストア「E-Mart」の会長に就任したのと並ぶ、グループ全体の世代交代を象徴する人事となった。
ラニ・ダルマワン(63歳/インドネシア)
バンクCIMBニアガ社長兼CEO CIMBグループ インドネシア代表
銀行業界のベテラン、ラニ・ダルマワンは、インドネシア第7位の資産規模を誇るバンクCIMBニアガの社長兼CEOとして、過去4年間で確かな成果を上げてきた。マレーシアの金融大手CIMBグループの子会社であるこのジャカルタ拠点の銀行は、彼女の指揮のもと、2024年に純利益6兆8000億ルピア(約626億円。1ルピア=0.0092円換算)を計上し、4年連続で過去最高益を更新。純金利収入は13兆3000億ルピア(約3.3兆円)に達した。
ダルマワンは貸出ポートフォリオの構成を見直し、中小企業向け融資や高利回りの個人ローンの比率を2019年の39%から2024年には45%まで引き上げた。インドネシア証券取引所に上場する同行の株価は、彼女の在任中に約75%上昇し、同期間の市場平均(27%上昇)を大きく上回っている。
2016年に個人金融部門の責任者としてCIMBニアガに入社したダルマワンは、その以前は、シティバンクやスタンダードチャータード、メイバンクのインドネシア支店で勤務し、バンク・プルマタ、バンク・セントラル・アジアでもキャリアを積んだ。現在はCIMBグループ全体のインドネシア代表も兼務しており、この役職を担う初の女性でもある。彼女は、もともとは歯学を専攻し歯科医を目指していたが、急成長する銀行業界の将来性に魅力を感じ、進路を変えたと語っている。
エミリー・ホン(68歳/台湾)
ウィウィン会長兼最高戦略責任者(CSO)
台北を拠点とするウィウィン(緯穎)をAIサーバー業界の有力企業へと押し上げた立役者が、エミリー・ホンだ。台湾の電子機器メーカー、ウィストロンの幹部だったホンは、オンプレミス型のITシステムからクラウドインフラへの移行をいち早く見抜き、新世代のサーバー需要を予見していた。2012年に彼女は、ウィストロンの子会社としてウィウィンを設立し、クラウドサービスプロバイダー向けのサーバー生産を担う事業を立ち上げた。
その先見性が、いま実を結びつつある。2025年上半期のウィウィンの売上高は前年比166%増の3914億台湾ドル(約2兆円。1台湾ドル=5円換算)に達し、税引後利益も133%増の219億台湾ドル(約1095億円)に伸びた。同社の業績は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)やオラクルなど大手クラウド事業者からの旺盛な需要に後押しされている。株価は年初から61%上昇し、時価総額は7630億台湾ドル(約3.8兆円)に到達。2019年にウィウィンを上場させたウィストロンは、現在も35%の株式を保有している。
ホンはやや異色の経歴を経てテック業界に加わった。高校時代は数学と理科で優秀な成績を収めたが、国立台湾大学では政治学を専攻した。卒業後に台湾のコンピュータメーカー、エイサーに入社し、副ゼネラルマネージャーにまで昇進した後に、2001年に同社から分離・独立したウィストロンへ移籍した。



