ジェーン・スン(57歳/中国)
トリップドットコム・グループCEO
ジェーン・スン最大の功績の1つは、パンデミックで世界の旅行需要が突然止まったときに、上海拠点の旅行サービス大手トリップドットコム・グループを破綻させずに乗り切ったことだ。CEOのスンは、自らの給与を放棄し、経営陣も大幅な減給を受け入れた。そしてその資金を、旅をキャンセルした顧客に返金した。「私たちは一丸となって困難を乗り越えた。その一体感こそが、嵐を耐え抜く力になった」と彼女は語る。
そして、国内市場に注力したトリップドットコムは、2023年初めに海外渡航制限が解除されると、即座に100件近い海外パッケージツアーを立ち上げた。そして現在では、航空券やホテルの予約は急増しており、2025年上半期には中国へのインバウンド旅行の予約が2倍以上に増え、海外旅行の予約も前年同期比で60%増を記録。売上高は40億(約6160億円)に達した。トリップドットコムは香港市場にも重複上場しているが、同社の時価総額はナスダック上場分だけで450億ドル(約6.9兆円)を超え、コロナ前の水準のほぼ2倍に達している。
今後3年間で、スンはネットワークを強化するために20万件の宿泊施設を新たに追加する計画を掲げている。現在、同社のプラットフォームは220の国・地域で、航空会社600社、ホテルや民泊を含む宿泊施設170万件を網羅している。AIを活用した新たな取り組みとして、バーチャル・コンシェルジュの「Trip.Planner」や、ホテル向けの多言語顧客対応ツールを含むB2Bソリューション「Intellitrip」も展開中だ。ビジネスと法学を学んだスンは2005年にCFOとして入社し、2016年に同社初の女性CEOに就任した。
ジェニー・ヨン(60歳/香港)
香港MTR次期CEO
香港証券取引所に上場する鉄道運営会社MTRは、来年1月に初の女性CEOとしてジェニー・ヨンを迎える。26年にわたって同社に勤めてきたヨンは、現在、香港交通事業部のマネージングディレクターを務めると同時に、同社の電子マネー事業「オクトパス・ホールディングス」の会長も兼任している。
香港政府が74%を保有するMTRは現在、約1400億香港ドル(約2.7兆円。1香港ドル=19円換算)規模の鉄道プロジェクトを進行中だ。その中には、中国本土との境界近くに位置する約65万人の雇用と250万人の居住が見込まれる政府主導の大型開発地区「ノーザン・メトロポリス」への鉄道連結計画が含まれている。
MTRは、「鉄道+不動産」モデルを軸に不動産開発・賃貸業でも収益を上げている。同社の昨年の純利益は158億香港ドル(約3002億円)に倍増したが、住宅販売の利益が押し上げ要因となった。売上高も4年連続で増加し、600億香港ドル(約1.1兆円)を突破した。MTRは、香港で9本の主要路線を運行し、年間20億人を輸送しているほか、中国本土やオーストラリアでも地下鉄事業を展開している。
アリサ・ヨネヤマ(38歳/日本)
ヨネックス社長兼CEO
スポーツ用品の世界的大手ヨネックス創業者の故米山稔の孫娘であるアリサ・ヨネヤマは昨年フォーブスの取材に「チャレンジャーであることこそが、私たちの原動力だ」と語っていた。2022年に同社の社長兼CEOに就任した彼女は、それ以降に成長を加速させ、2025年3月期の売上高は前年比約20%増の1383億円、純利益は106億円に達した。同社の成長は、テニスの大坂なおみやバドミントンのビクター・アクセルセン、ゴルフのキム・ヒョジュを含む有名アスリートのブランドアンバサダーに後押しされている。
米国生まれのヨネヤマは、日本とアメリカで育ち、カリフォルニア大学バークレー校で認知科学を専攻し、南カリフォルニア大学で応用心理学の修士号を取得。2016年にヨネックス北米法人のマーケティングマネージャーとして入社した彼女は、3年後に本社のマーケティング部副本部長に昇進し、2022年に現在会長を務める父・米山勉から社長職を引き継いだ。ヨネックスの株価は、年初来で約80%上昇している。SMBC日興証券は9月、同社株の目標株価を3000円から4600円に引き上げていた。
ジョウ・チャオナン(65歳/中国)
レンジ・インテリジェント・コンピューティング・テクノロジー・グループ創業者兼会長
通信事業から転身したジョウ・チャオナンは、2009年に49歳でデータセンター運営会社レンジ・インテリジェント・コンピューティング・テクノロジー・グループ(潤沢智算科技集団)を設立した。その決断が功を奏し、彼女は中国でも屈指の自力で富を築いた女性経営者となった。
2022年に株式交換を通じて深セン市場に上場した同社の株価は、AIブームを背景にこの1年で38%上昇。チャオナンの資産は53億ドル(約8162億円)に膨らんだ。顧客にはTikTok運営元のバイトダンスやファーウェイ、動画アプリ快手(クアイショウ)、各地の地方政府機関などが名を連ねる。
今年6月末時点で、中国全土に61カ所のデータセンターを展開。2025年上半期の売上高は前年同期比15%増の25億元(約525億円。1元=21円換算)だったが、新施設への投資で純利益は9%減の8億8210万元(約185億円)となった。湖南省出身のジョウは、20年近く公務員として働いたのち、2000年に通信サービス会社を設立して起業家に転身した。彼女の漢字の名前「超男(チャオナン)」は、毛沢東の格言に由来し、「男に勝る」という意味を持つ。
マリアナ・ゾベル・デ・アヤラ(37歳/フィリピン)
アヤラ・コープ、マネージングディレクター
フィリピン最古のコングロマリット、アヤラ・コープの8代目後継者マリアナ・ゾベル・デ・アヤラは、同グループの時価総額約58億ドル(約8932億円)の不動産子会社アヤラ・ランドのリース及びホスピタリティ事業を統括している。彼女のチームは、全国の商業施設、オフィス、ホテルを刷新する総額15億ドル(約2310億円)規模の再開発プログラムを推進中だ。
同社の総賃貸面積は、8つの既存モールの改装と新規開発によって、2028年までに約30%増の290万平方メートルに達する見通しだ。5億ドル(約770億円)を投じてホテル事業も強化し、2030年までに客室数を現在の約2倍の8000室へ増やす計画を掲げている。今年6月には香港のニュー・ワールド・デベロップメントから578室のホテル「ニュー・ワールド・マカティ」を買収。来年にはマカティ金融街にマンダリン・オリエンタル、マリオットのモクシー、ヒルトンのキャノピーといった新ブランドホテルを開業予定だ。
今年3月にアヤラ・コープのマネージングディレクターに就任したマリアナは、12年前にJPモルガン・ニューヨークでのアナリスト職を離れ、父のハイメ・アウグスト・ゾベル・デ・アヤラが会長を務める創業191年の銀行業から不動産業まで幅広く展開する企業グループに加わった。彼女は、ハーバード大学を卒業後にフランスのインシアードでMBAを取得。2023年にはアヤラ・ランドのシニアVPにも任命された。同社のリース及びホスピタリティ部門は、2025年上半期に過去最高となる売上高232億ペソ(約464億円)を記録し、グループ全体の収益の4分の1を占めていた。


