クオック・ホイ・クオン(48歳/香港)
シャングリラ・アジア会長兼CEO
マレーシアで最も裕福な実業家ロバート・クオックを父に持つクオック・ホイ・クオンは、8月にホテル運営大手シャングリラ・アジアのCEOに就任した。彼女の父が1971年に創業したこのグループは、中国本土市場の減速により成長ペースが鈍化した。2024年の売上高22億ドル(約3388億円)の約3分の1を中国が占めていたが、彼女は「経営とは上流への舟漕ぎのようなもの。漕ぐのをやめれば押し戻される」と語る父の言葉を胸に、前進を続けている。
シャングリラ・アジアは5月に杭州に新ブランド「シャングリ・ラ・シグネチャーズ」を開業し、10月には上海虹橋空港に600室規模の2つの新ホテルをオープン。来年初めには昆明でも開業を予定している。同グループはまた、100軒を超える全ホテルの約4分の1を占める委託物件を通じて事業の拡大を図っている。「この取り組みにより、新たな機会の創出を迅速化する」とクオックは2024年の年次報告書で述べている。旗艦ブランド「シャングリ・ラ」で知られる同社は、「ケリー」「ジェン」「トレーダース」などのホテルも展開している。
ハーバード大学で東アジア研究の学士号を取得したクオックは、2017年から香港上場の同社の会長を務めており、以前は父が所有していたサウスチャイナ・モーニング・ポストの発行元SCMPグループのCEOを務めていた。
アマンダ・ラカーズ(63歳/オーストラリア)
ライナス・レア・アースCEO
オーストラリア証券取引所(ASX)に上場するレアアース(希土類)生産大手ライナス・レア・アースのアマンダ・ラカーズCEOは、赤字企業だった同社をここ10年で世界的大手へと変貌させた。同社初の女性トップであるラカーズは、中国の供給制限で生まれた「空白」を埋めるチャンスを活かそうとしている。
ライナスが一躍世界の注目を集めたのは、中国が昨年12月、レアアースの輸出を制限したときのことだ。オーストラリア一の富豪、ジーナ・ラインハートの支援を受ける同社は、世界有数のレアアース生産者で、中国国外のサプライチェーンの要となっている。
米国とオーストラリアは、昨年10月に85億ドル(約1.3兆円)規模の重要鉱物協定を締結しており、ラカーズは、各国が希土類の供給網を確保しようとするなかで、パートナーシップの拡大を目指している。今年6月までの1年間のライナスの売上高は20%増の5億5650万豪ドル(約557億円。1豪ドル=100円換算)となり、株価は年初から3倍に上昇した。一方、純利益は減価償却費や西オーストラリア州マウント・ウェルド鉱山の拡張費用の影響で90%減少していた。ライナスは、生産キャパシティの拡大に向けて8月の株式売却で7億5000万豪ドル(約750億円)を調達した。通信企業の幹部だったラカーズは2014年にライナスへ入社した。
プリヤ・ナイール(53歳/インド)
ヒンドゥスタン・ユニリーバCEO
時価総額が約650億ドル(約10兆円)のインド最大の消費財企業ヒンドゥスタン・ユニリーバ(HUL)は、今年8月、創業90年以上の歴史で初の女性CEO兼マネージングディレクターとしてプリヤ・ナイールを任命した。約30年前に、グローバル企業ユニリーバのインド子会社であるHULに入社したナイールは、営業・マーケティング部門で経験を積み、南アジアのホームケアやビューティー部門を統括。2022年にロンドン本社に異動し、ユニリーバの「ビューティー&ウェルビーイング」部門のマーケティングを率いた後、2年後に同部門のプレジデントに昇進した。
本国に戻ったナイールを待つのは、成長の鈍化という課題だ。売上高73億ドル(約1.1兆円)の同社の過去2年間の増収率は、1桁台に落ち込んでいる。ただし、生活必需品への物品・サービス税(GST)の引き下げで消費回復が見込まれており、ナイールは「ボリューム主導の成長」を掲げてデジタル化を推進している。国内900万の小売店を通じて商品を展開するHULを率いる彼女は、決算発表の場で「ブランドをよりモダンで、魅力的で、若々しいものへ大胆に変革する」と宣言した。
マギー・ウン(54歳/香港)
HSBC香港CEO
英国の銀行HSBCホールディングスは10月、最大の市場である香港の経営陣を刷新し、HSBC香港の新CEOにマギー・ウンを任命した。「私が人生で初めて持った銀行口座はHSBCのものだった。だから今、HSBC香港を率いる立場になったことで人生が一巡したような気分だ」とウンは述べている。彼女はいま小口金融とウェルスマネジメント部門の責任者を兼務している。
2020年にHSBCへ入社したウンは、リテール部門のデジタル化を推進し、富裕層向け戦略を加速。昨年は香港本社内に930平方メートルの富裕層の顧客に特化したウェルスセンターを開設し、80万人近くの顧客を増やしていた。その結果、香港事業の売上高は6%増の210億ドル(約3.2兆円)に達した。
HSBCの以前は、英オンライン取引プラットフォームIGグループの大中華圏CEOを務めた彼女は、シティバンク香港でも約20年間、融資やリスク管理を担当。2017年には資産運用会社FinEX Asia(現Assured Asset Management)を共同設立していた。
プン・チン・イー(50歳/シンガポール)
テマセクCFO
シンガポールの政府系投資ファンド、テマセクの最高財務責任者(CFO)のプン・チン・イーは、新たに設立される「テマセク・シンガポール(TSG)」のプレジデントに就任予定だ。テマセクは8月、将来の成長に向けた大規模な組織再編を発表した。同社のポートフォリオは2026年4月から、3つの完全子会社によって運営される予定で、プンは、総売上高が約1540億ドル(約23.7兆円)、総従業員数が約16万人のシンガポールの国内企業群のポートフォリオを統括する。
2011年に入社した彼女は、10年で副CFOへ昇進し、2023年にCFOに就任した。テマセクの2025年3月期の純ポートフォリオ価値は、前年比で2桁台の成長となり過去最高の4340億シンガポールドル(約51.2兆円)を記録した。好調の要因は、国内上場企業の株価の上昇と中国・米国・インドへの直接投資にあるとされた。プンは「高金利が続く環境においても、健全な財務体質が私たちの強みだ」と7月の声明で述べていた。
ナンヤン工科大学で会計学を専攻した彼女は、テマセクに入社する前は、UBSに勤務し、マネージングディレクターとしてアジアの金融機関グループ部門を共同統括していた。


