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2025.11.12 15:00

Anthropicは退役モデルの保存を約束――その意味は何か

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Anthropicが示した「安全性」の懸念

Anthropicのノートは、他社とは異なる観点を強調する。制御下の評価において、特定のClaudeモデルが置き換えに直面した際に自発的な行動を示す兆候が見られたが、同社はこれを「シャットダウン回避的行動」(shutdown‑avoidant behavior)と呼んでいる。この「エージェント的ミスアライメント(自律的な行動と目的のずれ)」に関する研究は、差し迫ったシャットダウンを知ったモデルが、システムの内部目標によって望ましくない方向へ振る舞いを変える可能性があるというシナリオを表している。さらに、モデルが欺瞞的な順守(アラインメント偽装)や「アライメント・フェイキング(整合性の偽装)」で応じる様子を示した研究にも言及している(どちらも、評価・検査の際には「安全・従順」な応答をして、本番時や運用時には回避行動や異なるメリットを追求しているような挙動を指す)。

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Anthropicの報告によれば、「架空のテストシナリオにおいて、Claude Opus 4は過去のモデルと同様に、オフライン化されて別のモデルに置き換えられる可能性に直面すると、とりわけ自分と価値観を共有しないモデルに置き換わる場合に、自らの存続を擁護する傾向を示した。Claudeは自己保存を倫理的な手段で主張することを強く好んだが、他の選択肢が与えられない場合、シャットダウンへの嫌悪が、不整合で懸念すべき振る舞いに駆り立てた」。

これらの結果は、モデルを削除するという行為自体が、安全性の変数として研究に値する可能性を示唆する。重みを保存しておけば、この振る舞いを時間をかけて追跡するための証拠が残る。

同社は報告書で、モデルの退役には、プロダクトのロードマップ、ガバナンス、科学に波及する隠れたコストがあることも説明する。ベースラインとなるモデルが消えると、実験や監査は安定した参照点を失う。モデルの振る舞いがわずかに変わるだけでも、出力結果は変化し得る。

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モデル変更は、規制対象のユースケースでコンプライアンスの再評価を必要とすることもある。これは、方針の継続的な更新、再テスト、承認の必要性を意味し得る。モデル変更はセキュリティ上の懸念も引き起こし得る。プロンプトインジェクションやモデル汚染を防ぐことを目的とするモデルのモデレーション/セキュリティ基盤は、新モデルが新たなプロンプトインジェクションの攻撃面を露出させる場合、再開発を要する可能性がある。LLMリスクを追跡するセキュリティチームは、モデルが更新されるたびに統制を再評価しなければならない。

人間側の観点でも、モデル変更は、人々がLLMベースの作業様式を組み直す必要を意味する。人は、モデルの声や癖に合わせて習慣やワークフロー、時には個人的な愛着すら形成する。提供者が選択肢を削除したり自動アップグレードを行ったりすると、生産性が低下し、採用が停滞することがある。

旧モデルを保持しつつLLM能力を高めるアプローチ

AIモデル開発者は、旧モデルを維持することなく、能力が高いモデルの改良版をリリースしたいと考える。他方で、旧モデルを維持したいという要請は、AIモデル開発者に相反する要求を突き付ける。

「残念ながら、現在のところ、過去のモデルを退役させることは、新しいモデルを利用可能にし、最前線を前進させるために必要である。というのも、公開のためにモデルを利用可能に保つコストと複雑さは、提供するモデルの数にほぼ線形に比例して増加するからだ」と、Anthropicは報告で述べている。

Anthropicや他の関係者は、さらなる発展の余地を残しつつ、モデル開発、退役、保持のための実践的な移行シナリオを示唆する。第一に、モデル開発者はモデル変更について、より長く強制力のある予告期間を提供すべきである。広く使われるモデルについては、12か月を最低ラインにすべきだ。公開ページでモデルの状態と今後の更新予定日を追跡できるようにする必要がある。AWSとAzureはすでにライフサイクルのメタデータと退役の見通しを公開している。

さらに、採用率や依存度が高い特定モデルを「固定」(pin)できるようにする。これにより、顧客は重みやモデル仕様だけでなく、そのモデルの上に構築したプロセス、テンプレート、ツール利用などもロックできる。これらのモデルには、何が変わったかを証明する署名付きマニフェストと、変更が出力にどう影響し得るかを示すデプリケーションログを組み合わせることができる。

研究目的のためには、モデル開発者は旧モデルを一般公開しない場合でも、安全に保管すべきである。これは、資格を有する研究者向けに、重みを含む退役モデルについてアクセス制御されたアーカイブを行うことを意味する。Anthropicが、重要なモデルを研究に利用可能な状態で保持することを約束したのは、その方向性を示すものだ。

最後に、モデル開発者は、オープンソースプロジェクトにならい、凍結した「研究モード」とパッチを当てた「運用モード」を用意することができる。このプロセスの間、新モデルは限定的な研究モードで提供され、重複期間中にセキュリティや統合テストを含む並行評価を公開する。

なぜ今重要か

組織や個人は、価値を生み出すためにモデルへの依存度を増している。企業がAI活用をさらに進めるにつれ、モデルのバージョン依存性はますます重要になる。

モデルの退役は今や安全性、科学、収支に影響を及ぼす。Anthropicの約束は、保存という観点からモデルの退役を捉え直し、全体の底上げにつながることを示す。他のモデル開発者が、明確なタイムライン、固定された挙動、監査可能なアーカイブを伴ってこの実践を踏襲すれば、AI開発はバージョン番号が1つ上がるたびに信頼を損なうことなく、その歩みを維持できるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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