巨大テック企業は、2030年までの残り数年間、人工知能(AI)インフラ関連のプロジェクトに数兆ドル(数百兆円)規模の投資を行う見通しだ。その恩恵を最も受けるのは、むしろ小型株かもしれない。
本稿では、「米国で最も成功した小型株企業」2025年版から注目に値する企業を紹介する。
デルとの契約で株価6000%上昇、データセンター向けサーバーラック統合企業TSS
2024年3月、デル・テクノロジーズはエヌビディアと提携し、「AIファクトリー・ウィズ・エヌビディア」を発表した。これは、自社のサーバーやネットワーク技術に、エヌビディアの半導体とソフトウェアを組み合わせて企業向けのAI製品を提供するという取り組みだ。他のハイテク大手と同様にAI分野に注力するデルの株価は、2023年初頭から4倍に上昇した。
その舞台裏では、一般には知られていない企業TSS(ティー・エス・エス)の株価が大きく跳ね上がっていた。2023年9月、デルはTSSをデータセンター向け統合(インテグレーション)分野での優れた実績を理由に「最優先パートナー」に認定した。当時、同社の時価総額はわずか1000万ドル(約15億4000万円。1ドル=154円換算)にすぎなかったが、2024年10月にデルとAI対応サーバーラックの統合に関する複数年契約を締結。株価は昨年初めから実に6000%も上昇し、現在の時価総額は4億4000万ドル(約678億円)に達している。この急騰の原動力となったのは、まぎれもなくこの「最重要顧客」との契約だ。
TSSは2024年の年次報告書で、年間売上1億4800万ドル(約227億9200万円)のうち99%が単一のOEM(相手先ブランド製造)顧客からのものだったと明かしている。2024年の売上高は前年の約3倍に達し、2025年前半には前年同期比410%増となる1億4300万ドル(約220億円)の売上を記録した。
高利益を生む、複雑なサーバーラック統合事業
TSSの売上の大半は、国防総省などの政府機関との契約に必要な特殊コンテナや部品を、デルからの発注に基づいて供給する「調達サービス」と呼ばれる事業セグメントから得られている。一方で、より高い利益率を誇るのは、サーバーラックの組み立てや配線に加え、AI需要の拡大でサーバーの電力負荷が増す中、ますます複雑化が進む冷却や配管などのシステムを構築する「ラック統合」事業となっている。
TSSは、公式には主要顧客の名を明らかにしていないが、株式アナリストや投資家の間では、その顧客が年商1010億ドル(約15.6兆)のデルであることは広く知られている。TSSは、数カ月前まで、デルの本社があるテキサス州ラウンドロックに拠点を置いていた。しかし急速な事業拡大を受け、現在は本社をオースティン郊外のジョージタウンに移転し、敷地面積を2倍に拡張した新施設で操業している。
2022年11月にTSSのトップに就任したダリル・デワンCEOは以前、約10年間デルで営業職を務めていた。
デルがTSSを買収しない理由とは
TSSの会長ピーター・ウッドワードは、「なぜ当社のOEM顧客が自社で同じことをしないのか、あるいは当社を買収しないのかと、誰もが尋ねてくる。でも答えは簡単だ。彼らは今のサービスに非常に満足しているからだ」と述べている。彼が投資会社MHWキャピタル・マネジメントを通じて保有する10.5%のTSS株の価値は現在4000万ドル(約62億円)を超える。「彼らは自社で同じ業務を行えるが、それでも当社に十分な取引を任している。この種のサービスについては、多くのOEM企業が同じようなスタンスを取っている」とウッドワードは続けた。
ウッドワードは将来的に、TSSの生産能力を拡大し、デル以外の顧客にもサービスを提供できる体制を整えたいと考えている。次のターゲットとして、アマゾン、マイクロソフト、オラクルといったクラウドサービス大手の名を挙げている。



