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2025.11.11 10:30

OpenAIが破綻しても、サム・アルトマンCEOは「無傷」で済む

Photo by Andrew Harnik/Getty Images

アルトマンが懸念するリスクは、支出超過よりも「計算資源の不足」

1兆ドル(約154兆円)規模のリスクを抱えているにもかかわらず、アルトマンがより大きなリスクと見なしているのは計算資源だ。優れたAIモデルを訓練・運用するための安価な計算資源を将来的に十分に確保できないと、同社の収益に重大な影響を及ぼす。

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アルトマンは次のように明かす。「計算資源が足りないリスクのほうが、持ちすぎるリスクよりも重大かつ現実的だと考えている」。また「CoreWeaveのように他社に計算資源を直接販売する可能性も探っている」と付け加えた。OpenAIの広報担当スティーブ・シャープは、フォーブスの取材に対し「付け加えることはない」と回答した。

「スケーリング則」に忠実なアルトマン

アルトマンが可能な限り膨大な計算資源を確保しようとするのは、不思議なことではない。彼はこれまで常に、システム規模の拡大と性能の向上が比例関係にあるという「スケーリング則」に忠実だった。2025年初め、アルトマンはOpenAIの最終目標である汎用人工知能(AGI)の到来について考察している。これは、人間と同等かそれ以上の能力を持つAIの実現を意味する。

「AIモデルの知能は、訓練と運用に使われたリソースの対数にほぼ比例する」と彼は書き、「そこに資金を注ぎ込めば、連続的かつ予測可能な性能向上が得られる」と指摘した。「この現象を予測するスケーリング則は、桁違いの規模にわたって正確に当てはまる」とも彼は記している。

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そしてアルトマンは、ChatGPTが登場する以前ですら、暗号資産と個人認証を組み合わせた自身の別会社ワールドコイン(現在はワールドに改称)の社員に、「私の行動原理の1つは、“とにかくスケールさせて何が起こるか見てみよう”というものだ」と語っていたことを、フォーブスは2023年8月の記事で報じている。

彼は、この考え方が大型ニューラルネットワークから核融合炉に至るまで、あらゆる分野に有効で、しかも「早ければ早いほどいい」と考えていた。「早すぎると思われる段階でスケールさせることにこそ、巨大な価値がある」と、彼は当時社員に語っていた。

金銭的リスクを負わないCEO、アルトマンは持ち株ゼロ

専門家によれば、こうした大胆な取引を主導するアルトマンには、失うものがほとんどない。彼自身、OpenAIに持ち株を保有していないと繰り返し述べており、同社が公益目的会社(PBC)へ再編された後も持ち分を持たないとしている。「彼には、もしOpenAIが成功すれば、影響力という意味での“上昇余地”があるが、実際には金銭的なリスクを負っていない。彼は、何の経済的責任も負わないことを承知のうえで、これだけの約束をしている」。そう指摘するのは、カリフォルニア大学バークレー校ロースクールの企業統治学教授オファー・エルダーだ。

専門家が指摘する、ガバナンス上の懸念とリーダーの責任

「これは健全なコーポレート・ガバナンスとは言いがたい」。サンタクララ大学リービー経営大学院の経営・起業学教授ジョー=エレン・ポズナーもそう賛同している。「人々は、“先駆的だ”と考えるリーダーに対し、独特な行動を許容してしまう傾向がある。だが、物事がうまくいかず誰かが代償を払わなければならなくなったとき、彼らが責任を負うのかは不透明だ」と彼女は語る。

D.A.デイビッドソンのルリアもこう補足する。「彼は好きなだけ約束できる。1兆ドル(約154兆円)でも、10兆ドル(約1540兆円)でも、100兆ドル(約1京5400兆円)でもいい。彼は、それを使うか、再交渉するか、手を引くかのいずれかだ」。

もちろんアルトマンは、これら取引に失敗した場合に業界の信頼を失うような間接的リスクを抱えている。しかし少なくとも形式上は、彼が法的・金銭的な責任を問われることはないと専門家は述べている。

取引先の巨大テック企業が享受する恩恵は、提携発表で上昇する株価

OpenAIの存在感が高まるにつれ、ハイテク大手はこの「AIの巨人」との契約を求めて殺到している。「私たちと組みたいという企業が増えたおかげで、交渉のスピードも速くなっている」とアルトマンは最近語った。そして、その恩恵を最も受けているのは取引先のほうだ。オラクル、エヌビディア、AMD、ブロードコムの4社の合計の時価総額は、OpenAIとの提携の発表日に6360億ドル(約97.9兆円)も上昇した。直近では、OpenAIがアマゾンと380億ドル(約5.9兆円)規模のAIインフラ契約を発表した当日に、アマゾンの株価は4%上昇し、ジェフ・ベゾスの純資産は100億ドル(約1.5兆円)増加した。

「アルトマンは、“彼らが私を必要としている度合いのほうが、私が彼らを必要としている度合いよりも大きい”と考えている」と、D.A.デイビッドソンのルリアは指摘する。

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翻訳=上田裕資

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