政治

2025.11.10 08:00

核戦争はもはや「非現実的」ではないのか 弱まりつつある抑止力

ロシアのRS24ヤルス核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル。2024年5月5日撮影(Contributor/Getty Images)

ロシア政府は2024年11月、自国の主権または領土保全への脅威と見なされるあらゆる攻撃に対する先制使用を盛り込むよう、核戦略を正式に改訂した。実際、ロシアは4年ごとに実施する大規模な軍事演習「ザパト」で、過去20年間にわたり核兵器の先制使用を訓練してきた。2024年に同国が核兵器使用の敷居を下げたことは、特に懸念される動きと見なされた。というのも、ロシアは既に世界で最も低い核兵器使用の基準を設定していたからだ。

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ウクライナ侵攻から得られた教訓

2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、この点に関して2つの懸念材料をもたらした。

まず、ロシア軍が天候と激しい抵抗により足止めされたことを受け、プーチン大統領は中国の習近平国家主席に対し、状況を変えるために核兵器を使用する案を持ちかけた。当時のアントニー・ブリンケン米国務長官によれば、習主席はこの案を断固として拒否した。

ブリンケン長官は、ロシア軍による核兵器使用の可能性が「5~15%」に上昇したことを深く懸念していると表明した。実際、ウクライナ軍に有利な戦況が続けば、米中央情報局(CIA)はこの可能性を少なくとも50%に引き上げていた。これはロシア軍高官の通信を傍受した情報に基づくもので、核兵器の準備に関与する特定の部隊名が言及されていた。事態がここまで進展したことは、主要な通常戦力による敗北に直面した際に戦術兵器を投入することが運用方針であることを示唆している。

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プーチン大統領が実際に戦術兵器使用の計画立案を命じたかどうかは、恐らく永遠に分からないだろう。結局、戦況はロシア側に有利に推移し、差し迫った動機は消滅した。教訓は、ウクライナ側が再び優位に立った場合、NATOの支援の有無にかかわらず、殺傷目的か恐怖をあおる目的かを問わず、限定的な核攻撃が再びロシアの検討課題になるということだ。

もう1つの例も同様に憂慮すべきものだ。ロシア軍の初期目標の1つは、ウクライナ北部のチョルノブイリ(チェルノブイリ)原子力発電所を占拠することだった。同軍は無人機(ドローン)で、1986年に爆発事故があった4号機の原子炉を覆うシェルターに深刻な損害を与えた。

その1カ月後、ロシア軍はウクライナ南部ザポリッジャ原子力発電所を制圧。施設に向けて発砲し、建屋に損傷を与えた。同軍は同発電所を占領すると、近隣の町への攻撃のための前進作戦基地とした。ロシア軍は発電所の敷地内に対人地雷を埋設し、1年以上にわたりウクライナ軍の反撃に対する盾として同施設を利用し続けた。6基の原子炉はすべて冷温停止状態にあったものの、原子炉の炉心と使用済み燃料を冷却するためのポンプにはリスクが残っていた。これらの冷却ポンプは24時間電源が必要だ。だが、ロシア占領下では何度も停電が発生し、非常用ディーゼル発電機の使用が繰り返されている。2023年6月、ロシア軍は近隣のカホウカダムを爆破し、大規模な洪水と環境被害を引き起こし、ザポリッジャ原子力発電所への冷却水供給を一時的に停止させた。

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翻訳・編集=安藤清香

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