相次ぐ特許切れに直面する世界の製薬大手は、新規の創薬候補を共同開発するために中国企業へとますます目を向けている。一方で、これらの提携は、中国の製薬企業が世界市場へ打って出るのを助ける可能性がある。臨床試験には数十億ドル(数千億円)がかかり得る上、規制当局の承認を得るプロセスには時間がかかるため、同市場の開拓は難題であるとレンは述べる。
ハンソーは堅調なファンダメンタルズにも支えられている。2025年上半期、同社の売上高は前年同期比14%増の74億元(約1554億円。1元=21円換算)となり、純利益は15%増の31億元(約651億円)となった。同社の主力がん治療薬アメイル(Ameile)は、中国市場でアストラゼネカのタグリッソ(Tagrisso)からシェアを奪っているとサイラス・ンは述べる。それでも、ハンソーが高収益の可能性を秘めたライセンス契約を取り付けてきたとはいえ、同社が直面する困難は少なくない。
世界的に見て、第I相臨床試験に入った医薬品のうち市場投入まで到達するのは8%から10%に過ぎないとレンは指摘する。さらに、トランプ政権は中国発の低価格薬の流通を制限することを検討している可能性があり、これが米国の製薬企業に打撃を与え得ると、ニューヨーク・タイムズは9月に報じた。もっとも、ドイツ銀行のサイラス・ンは、アジアや欧州では依然としてライセンス契約を模索する企業があるため、中国の製薬企業はそうした地域で事業を拡大できると指摘する。
自力で富を築いたビリオネアとして、ジョン・フイジュアンは困難に不慣れではない。中国東部のJiangsu Normal University(江蘇師範大學)で1982年に化学学士号を取得した彼女は、中華全国婦女連合会(All-China Women’s Federation)によれば、地元の中学校で化学を教える職を得た。その後、江蘇省連雲港市の薬事監督局で働いたのち、1995年にハンソーを設立した。投資家のセン・ジュンダの支援を受け、ジョンは同社を成長させ、2019年には香港で株式を公開し、79億香港ドル(約1501億円。1香港ドル=19円換算)を調達した。センはハンソー株の保有のおかげで85億5000万ドル(約1.3兆円)の資産で、「中国の富豪100人」2025年版の52位に入っている。
ジョンの夫で、センの支援を受けたハンルイ医薬(Jiangsu Hengrui Pharmaceuticals)の会長であるスン・ピャオヤン(孫飄陽。Sun Piaoyang)は、別建てで「中国の富豪100人」2025年版の26位にランクされ、純資産は136億ドル(約2.1兆円)となっている。両社は取締役会も別で独立して運営されており、娘のスン・ユアンはハンソーの取締役として研究開発も統括している。


