経済・社会

2025.11.09 12:00

NY新市長マムダニとの闘いと苦悩──地元スーパーマーケットで財をなした大富豪

ジョン・キャツィマティディス(Photo by Spencer Platt/Getty Images)

ジョン・キャツィマティディス(Photo by Spencer Platt/Getty Images)

米ニューヨーク市長選で、民主社会主義者のゾーラン・マムダニが勝利した。彼は、公約の1つに「家賃・税負担なしで卸値販売する市営スーパー」構想を掲げている。これに対し、市内で大規模なスーパー網を持つ大富豪ジョン・キャツィマティディスが猛反発し、ニューヨーク市からの事業移転を巡り揺れている。

キャツィマティディスは、「税金免除の競合とは戦えない」として当初は隣のニュージャージー州への移転を計画。しかし、そのニュージャージー州でも民主党知事が選出されたため計画を白紙化。「ビジネスに常識的な場所」と人員削減を視野に入れる。背景には、市営店の税優遇がもたらす競争条件の歪みだけでなく、食料品インフレ、万引き増加による収益悪化がある。

「市営の格安食料品店」構想のマムダニに、大富豪はじめ業界が猛反発

NYスーパーマーケット界の大富豪ジョン・キャツィマティディスは6月、ゾーラン・マムダニが民主党の予備選で勝利すると、激しく反発した。マムダニが、5つの行政区それぞれに市営の格安食料品店を開く構想を掲げているためだ。キャツィマティディスはボデガ(地域密着の小型食料雑貨店)の店主たちと記者会見を開き、この民主社会主義者が本選で勝てば自社の30店超を閉鎖すると公に脅し、テレビでも激しくまくしたてた。FOXニュースで彼は、マムダニを社会主義国家キューバの指導者フィデル・カストロになぞらえつつこう述べた。「彼はそんな資格はありません……ばかげています」「すべて壮大な詐欺です」。

彼はまたトランプ大統領に電話をかけ、トランプも友人キャツィマティディスを公に支援した。フォーブスが純資産48億ドル(約7344億円。1ドル=153円換算)と推計する友人について、トランプはこう語った。「(マムダニは)実際にジョン・キャツィマティディスの食料品店を乗っ取ろうとしています。ジョンは素晴らしい人物で、裕福な人物です」。さらに「ジョン(キャツィマティディス)はこの前、私に電話をかけてきました。自分の店が取り上げられるのではないかと心配しています。そして、新しい店はジョンがやっているようには運営されないでしょう。信じてください、彼は良い経営をしています」と述べた。

マムダニ当選後に移転先を再検討、フロリダが最有力か

マムダニが当選した今、キャツィマティディスは再び揺さぶりをかけている。「多くのビジネスパーソンがニューヨーク市での事業展開を減らしていると思います」と彼はフォーブスに語る。売上高78億ドル(約1.2兆円)のレッド・アップル・グループ(Red Apple Group)を率いるキャツィマティディスは、ペンシルベニア州の製油所、約400のコンビニエンスストア、ニューヨークからフロリダに及ぶ不動産ポートフォリオも所有しており、マムダニが市長になれば本社をニュージャージー州に移すことを検討していた。

しかし、キャツィマティディスは米国時間11月4日の選挙の後、その考えを変えた。「ニュージャージーは望んだ方向には進みませんでした」と彼は言う――同州が民主党のミキー・シェリルを知事に圧倒的多数で選出したためである。現在彼は事業移転先として「フレンドリーな州」を探しており、最有力候補はフロリダだという。「キーワードは、ビジネスを行うのに常識が通用する場所です」とキャツィマティディスは説明する。

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翻訳=酒匂寛

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