人類の火星移住に向けて窓を開く
従来とはまったく異なる柔軟な発想に基づいたこの新航路は、そもそも打ち上げ予定が2024年10月から延期されたために考案されたものではあるが、将来の有人火星探査の規模拡大にあたって決定的に重要なルートになり得る。
なぜなら、火星の衝の時期の短期間に有人・無人の宇宙船を同時にたくさん打ち上げるというのは現実的ではないからだ。柔軟な軌道で火星を目指すESCAPADEの先駆的技術なら、数カ月間にまたがって制限なく宇宙船を打ち上げられる。ラグランジュ点で待機列を形成し、同時期に火星への旅を始めることができるのだ。
「太陽と地球と火星が一直線に並んでいないタイミングで、火星への打ち上げは可能なのか。ESCAPADEはその道を開く」と、NASAのミッションパートナー企業であるAdvanced Space(アドバンスド・スペース)のジェフリー・パーカー最高技術責任者(CTO)は語っている。

火星の宇宙天気研究
火星に到着した双子の探査衛星は、太陽風が火星の大気とどのように相互作用しているかを研究する。これは、火星が生命を育むのに不可欠な大気を喪失したメカニズムの解明や、激しい太陽嵐の発生時に宇宙飛行士を放射線から守るのに必要となる重要なデータだ。何しろ火星には、地球のように宇宙放射線を遮断する厚い大気層や磁場が存在しないのである。
「宇宙天気を測定し、その仕組みをしっかり解明することにより、火星の地表や軌道上で宇宙飛行士に危害を及ぼす恐れのある放射線を放出する太陽嵐の予測を目指す」と、カリフォルニア大学バークレー校のミッション責任者ロバート・リリス博士は説明し、こう続けた。
「火星に人類の居住地を確立するというのは、間違いなく困難な挑戦だ。だが、人間は粘り強いものだ。そうだろう?」
ESCAPADEミッションの目的には、火星を取り巻く電離圏を研究し、長距離通信を改善することも含まれている。電離圏には地上付近からの電波を反射する性質があり、火星表面での航行や宇宙飛行士の生存に不可欠だ。


