「老後、果たして暮らしていけるだろうか?」
止まらない物価上昇、厳しい年金生活などを背景に、将来に漠然とした不安を抱えるものの、毎日何かと忙しく具体的な策を講じられていない、そんな現役世代は多いことでしょう。デフレからインフレへ、経済が大きな節目を迎えるなか、今、私たちはお金との向き合い方を改め、人生のマネー戦略を描き直す必要があります。その確かなヒントを、経済や家計のデータから紐解いていく連載が始まります。
著者は20年以上、ファンドマネージャーを務めた資産運用のプロで、三井住友トラスト・アセットマネジメント チーフストラテジストの上野裕之。人生100年時代、長引く老後を豊かに、笑って過ごすための手がかりが、きっと見つかるはず。
さよならデフレ。国民を苦しめる「値上げブーム」襲来
1990年代半ばから続いたモノの値段が上がらない時代は、ようやく終焉を迎えたと見られます。この経済構造の変化は、個人の資産形成にとって大きな転換点となります。
総務省が10月24日に発表した9月の全国消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で+2.9%。変動の激しい生鮮食品を除く物価指数(コアCPI)についても同じく+2.9%で、高い水準になっています。コメをはじめとする食料品の価格上昇などにより、2024年秋以降、物価上昇が顕著になりました。CPIは政府・日銀の目指す物価上昇率+2%を、2022年4月以来、3年以上にわたり上回っており、幅広い品目・サービスで長年据え置かれてきた価格が引き上げられ、一種の「値上げブーム」が続いています。
なぜ、長らく続いたデフレが終わったのか。転機は、2020年から始まったコロナ禍でした。当初、経済活動は大きく落ち込み、需要が急減。多くの生産活動が止まり、後継者のいない企業や店舗では、廃業の動きも見られました。その後、徐々に経済の正常化が進みましたが、2022年2月にはロシアによるウクライナ侵略が始まったことで、小麦などの食料や原油、天然ガスをはじめとしたエネルギーが不足。一方で、欧米経済がコロナ禍から急回復したこともあり、需要に供給が追い付かず、世界的な価格高騰が生じました。
日本でも、2023年1月にはコアCPIが前年同月比で+4.2%という1981年以来、約40年ぶりの高い伸び率を示すなど、物価が急上昇。その後も、右肩上がりが続いています。
7月、連合(日本労働組合総連合会)は2025年春闘の回答の最終集計結果を公表。賃上げ率は、33年ぶりの高水準となった前年を0.15ポイント上回る、5.25%となりました。内閣府の『令和7年度経済財政白書』には、これまで消費が弱かった背景には、「賃上げが続くのかという将来的な不安があった」という主旨の記述がされています。2023年から始まった大幅な賃上げも今年で3巡目に入り、物価上昇を上回る賃金上昇が定着すれば、日本もイギリス(3.8%)やアメリカ(3%)など、他先進国のように物価が上昇していくことになります(※)。
※ 英米CPIはいずれも9月分前年比



