中国や日本も、国内外で投資を拡大
一部の富豪は国外市場にも目を向け、次の成長機会を狙っている。すでに地域最大のデータセンター容量を誇る中国では、テック系ビリオネアが国際展開を加速中だ。ジャック・マー率いるアリババは530億ドル(約8.1兆円)を投じ、アジア、欧州、南米でクラウドインフラの拡充を進めている。一方、ポニー・マー率いるテンセントは、世界21市場で55拠点を運営しつつ、日本とインドネシアで新たなデータセンターを建設している。
日本のビリオネア孫正義のソフトバンクも、大阪の旧シャープ液晶工場を約60億ドル(約9180億円)を投じて改修し、400メガワット規模のデータセンターに転用しようとしている。さらに、同社はOpenAIが米国で進める総額5000億ドル(約76.5兆円)規模の「スターゲート」データセンター計画への出資も表明している。
この分野の成長ポテンシャルは、企業買収の動きも加速させている。この地域で過去最大規模となったのが、ブラックストーン主導のコンソーシアムが昨年、オーストラリアのデータセンター運営会社エアトランクを160億ドル(約2.4兆円)で買収した取引だ。現在13カ所で合計1ギガワット超の稼働容量を持つ同社は、2030年までにこれを倍増させる計画だと、創業者兼CEOのロビン・クダが明らかにしている。
急拡大の懸念は、電力と水といった資源への負荷と「データセンターバブル」の可能性
急ピッチで進むデータセンター建設ラッシュの最大の懸念は、電力と水といった既存資源への負荷だ。これらの巨大施設はいわば「資源をむさぼる複合体」であり、その規模拡大が各国のインフラに圧力をかけている。YTLのように太陽光発電による電力供給を進める企業もあれば、サムスン電子のようにOpenAIと組んで洋上データセンターの開発を模索する企業もある。しかし、PwCの報告書によれば、2030年までに再生可能エネルギーで賄えるのは、電力需要の増加分の3分の1にも満たない見通しだという。「ギャップは大きく、その解消は極めて重要だ」と同報告書は指摘している。
また一部のアナリストはこの過熱ぶりが「データセンターバブル」につながる可能性を懸念している。だが、不動産コンサルティング会社JLLのアジア太平洋地域データセンター調査ディレクター、ジテシュ・カルレカルは、医療、教育、防衛など重要分野におけるAI活用が飛躍的に進んでいる現状を踏まえ、「今のところ業界は供給不足に直面する可能性のほうが高い」と分析している。


