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2025.11.10 11:00

OpenAI取締役会会長とグーグルに18年間在籍のベテランが創業、顧客対応「AIエージェント」新興

T. Schneider / Shutterstock.com

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米国では顧客対応が巨大なコストセンターになっている。電話の自動音声案内とチャットの自動応答が標準となり、SMSやWhatsAppなどのメッセージアプリも含めた複数チャネルで、まずは顧客が自分で解決するという前提が広がっている。

その最前線を人工知能(AI)エージェントエージェントに置き換えるのが、2023年創業のスタートアップ「Sierra(シエラ)」だ。年換算売上は1億ドル(約153億円。1ドル=153円換算)を超え、評価額は100億ドル(約1.5兆円)、直近の資金調達は3億5000万ドル(約535億5000万円)に上る。主要顧客は大企業で、AIが問い合わせを完全に解決した件だけ課金する成果報酬型を採用する。ChatGPT連携、オペレーター支援のLiveAssist、顧客の記憶を統合するAgent Data Platformで、受け身対応から先回り提案へ進める。

Sierraの創業者はBret Taylor(ブレット・テイラー)と Clay Bavor(クレイ・バヴォー)の2人だ。テイラーはGoogleで『Google マップ』の共同開発者を務め、Facebookの最高技術責任者(CTO)、Twitter取締役会長、Salesforce共同CEOを経て、現在はOpenAI取締役会会長を兼務している。バヴォーはGoogleに18年間在籍し、Gmail、Google ドキュメント、Google ドライブの開発を率い、仮想現実(VR)/拡張現実(AR)のDaydreamや三次元通話のStarlineを主導した。

SierraのテイラーCEO、「成約の鐘」にアルプホルンを選ぶ

Sierraのブレット・テイラーCEOは、フォーブス記者の目の前で笑みを浮かべながら長さ3.5メートル巨大な「アルプホルン」に息を吹き込んだ。カリフォルニア産のレッドウッドで作られたこの木製ホルンは、最初こそ不安定な音を響かせたものの、やがて澄み切った長音を奏でた。

「トランペットのように、少し練習が必要なんだ」と彼は言う。「不格好で間の抜けた楽器だけど、そこがたまらなく気に入っている」。

アルプホルンの吹き方という話題は、テイラーのようなシリコンバレーの著名な経営者には似つかわしくないように思えるかもしれない。しかし、彼がホルンを話題にしたのには理由がある。共同創業者のクレイ・バヴォーとテイラーは、2023年にSierraを立ち上げた直後、契約を獲得するたびに「成約の鐘」を鳴らすという、他のソフト会社でよくある古めかしい慣習をやめようと決意したのだ。

その代わりに2人が選んだのは、社名にちなんだ「山」のイメージにふさわしい楽器だった。Sierraの採用ページには「アルプホルンの無料レッスン」が公式の福利厚生として記載されている。しかもこのホルンは、偶然にも「シエラ・アルプホルン」という会社から購入したものだ。

顧客はノースフェイスやリビアン、売上10億ドル超の大企業に照準

テイラーによれば、彼らはこれまでに何百回もホルンを吹いてきたというが、具体的な顧客数を明かしていない。Sierraの顧客リストにはスタートアップから大手消費者ブランドまでが並び、ノースフェイスや電気自動車(EV)メーカーのリビアン、ホームセキュリティ大手のADT、デジタルラジオのシリウスXMなどが含まれる。

主に大企業をターゲットとするSierraの顧客の半数以上は、年間売上が10億ドル(約1530億円)以上で、2割は100億ドル(約1.5兆円)を超えるという。同社の業績に詳しい関係者によると、こうした戦略が功を奏し、同社の来年1月までの会計年度の年換算売上は、1億ドル(約153億円)を突破する見通しだ。

SierraのAIエージェントは、返品や定期購読の解約といった、厄介なカスタマーサービスの業務を自動化している。それらは通常なら、企業のウェブサイト上の小さなポップアップ画面でボットとやり取りするか、面倒な場合は人間の担当者に直接つないでもらう必要がある課題だ。だが、テイラーとバヴォーは、この会社が単に「クレーム処理を効率化する会社」とは考えていない。

AIの未来、クレーム処理から企業「専属コンシェルジュ」への進化

2人は、AIエージェントがいずれ極めて高性能になり、企業と顧客をつなぐ主要な窓口になると見ている。顧客はテキストメッセージや電話、アプリ、WhatsAppなど、複数のチャネルを通じてエージェントとやり取りするようになるだろう。エージェントは企業の「専属コンシェルジュ」として、過去の会話内容を記憶し、顧客一人ひとりの嗜好に基づいて提案を行うようになる。

「インターネットの約束の1つは“パーソナライゼーション”だったが、実際にそれが完全に実現した例といえば、今のところターゲティング広告ぐらいだ」と、グーグルで20年近くを過ごしたバヴォーは皮肉っぽく語る。

もっとも、現時点ではAIエージェントはまだ発展途上だ。Sierraは11月5日、新たに複数の製品を発表し、エージェントをより多目的な「コンシェルジュ」のように機能させることを目指している。狙いは、これまでのようにクレームなどの“受け身の対応”にとどまらず、企業側が必要と判断したタイミングで先回りして顧客に提案できるようにすることだ。

バヴォーの説明によれば、たとえば海外の旅先に到着した際、通信キャリアのエージェントが「ローミング料金に注意」という従来の通知を送る代わりに、「無料のデータ通信ギガバイトをプレゼント」というプロモーションを提案するような使い方を想定しているという。

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翻訳=上田裕資

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