AI

2025.11.10 11:00

OpenAI取締役会会長とグーグルに18年間在籍のベテランが創業、顧客対応「AIエージェント」新興

T. Schneider / Shutterstock.com

OpenAI会長の兼務、Sierraにとっての恩恵と創業者たちの葛藤

2023年にテイラーとバヴォーがSierraを立ち上げてから数カ月後、OpenAIがテック業界を震撼させた。11月末の感謝祭のわずか数日前、同社の非営利取締役会が突如サム・アルトマンCEOを解任したのだ。その後、激しい主導権争いが繰り広げられ、5日後に混乱が収まったときにはアルトマンが復帰し、テイラーが新たに取締役会会長に就任することになった。もっとも、この打診を受けた時点で、彼は心を決めていたわけではなかった。

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「最初に相談したのは妻で、次に話したのがクレイ(バヴォー)だった」とテイラーは振り返る。彼は熟慮の末、Sierraがまだ立ち上げ期にあるなかで、自分がその成長から離れることを恐れていたという。だがバヴォーは強く背中を押し、テイラーは就任を受け入れた。

「ある意味、OpenAIがなければSierraを立ち上げることもなかったと思う」とテイラーは語る。「OpenAIは非常に重要な存在だ。私たちがGPTモデルやChatGPTを基盤に事業を展開できているのは、彼らが市場をつくってくれたおかげであり、その恩義を感じている」。

テイラーは、OpenAIでの役割がSierraから自分の時間を多少奪っていることを認めている。「ただ素晴らしいのは、世界最高の研究機関のそばにいられるだけでなく、AI分野で最も重要な消費者向けサービスにも関われることだ」。

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彼はこの経験をSierraにとってもプラスだと考えており、両者での立場を明確に区別している。「まったく異なる仕事なんだ」とテイラーは言う。彼はSierraでは製品開発に集中している一方で、最終的な目標をAIが人間の能力に並ぶ、あるいは超える「AGI(人工汎用知能)」の実現に置くOpenAIでは、「未来を発明すること」に注力し、サム・アルトマンからその「野心の大きさ」を学んでいるという。

AIが描く未来、AGIの先にある「エージェント同士の対話」

もっとも、「未来を発明すること」はAGIに限らない。Sierraが掲げるように、AIエージェントが企業のウェブサイトと同等の重要性を持つ存在になるとすれば、そのビジネス的影響は計り知れない。同社は音声技術への投資を強化しており、グーグルやOpenAI、ロンドン拠点のスタートアップElevenLabsなどのモデル開発企業と連携している。

バヴォーによれば、Sierraには「ボイス・ソムリエ」という非公式の肩書きを持つエンジニアが在籍しており、複数の音声モデルを組み合わせてブランドごとの音声ペルソナを作り出しているという。

その先の未来についてテイラーは「将来的にはすべての企業がAIエージェントを持つだけでなく、消費者自身も自分のために行動する“個人エージェント”を持つようになる」と予測している。Sierraはすでに、そうした“エージェント同士がやり取りする未来”に備えているという。

雇用の置き換えとリスキリング、AIが突きつける未来への課題

もちろん、そこには不安要素もある。AIボットが主流となる世界で、コールセンターの従業員の仕事はどうなるのか──人々の職の置き換えという現実的な問題が生じることになる。テイラーは「こうした変化はカスタマーサービスの領域を超える問題だ」と指摘し、企業がリスキリング(再教育)に積極的に取り組む必要性を強調した。

AIは「スパム」にならないか、バランス感覚が最後の難関

Sierraが描くカスタマーサービスの理想像は「バランス」にある。もしすべての企業が積極的に顧客に語りかけるAIエージェントを導入すれば、何百ものブランドが日々、消費者に絶え間なくプロモーションやオファーを送りつけ、通知音が鳴り止まない世界が生まれかねない。Sierraはその事態を避けるため、顧客企業と協力して「エージェントが登場すべき適切なタイミング」を見極める方針だ。

「体験を“パーソナルかつ主体的”にすることが目標だが、“押しつけがましく”はしたくない」とテイラーは言う。「AIのすごいところは、こうした繊細なニュアンスを表現できることだ。私たちがきちんと仕事をしていれば、ユーザーがスパム攻撃のように感じることはないはずだ」。

もっとも、それは高くそびえる山(シエラ)を登るよりも困難な道かもしれない。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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