AI

2025.11.10 11:00

OpenAI取締役会会長とグーグルに18年間在籍のベテランが創業、顧客対応「AIエージェント」新興

T. Schneider / Shutterstock.com

AIブームの異色な創業者、グーグル出身ベテラン2人組の再集結

AIブームに沸く今、世界中からかつてないほど若い起業家たちが一攫千金を夢見てサンフランシスコに集まっている。そんな中で、ブレット・テイラーとクレイ・バヴォーの2人は異色の存在だ。シリコンバレーの有力企業で合わせて40年以上働いてきた彼らは、ベイエリア生まれのベテランだ。

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オークランド生まれのテイラーの母親はシェブロンの幹部、父親は空調設備業界の機械エンジニアだった。一方、バヴォーは心臓専門医の父とキルト職人の母のもと、グーグルの本拠地マウンテンビューで育った。2人とも偶然にも、高校時代に友人や地元の小規模事業者向けにウェブサイトを作ったことが、テクノロジーの世界に入るきっかけとなった。

45歳のテイラーと42歳のバヴォーが出会ったのはグーグルだ。マリッサ・メイヤー(後のヤフーCEO)が立ち上げたアソシエイト・プロジェクトマネージャー・プログラムに、2人とも新卒として採用された。テイラーはスタンフォード大学、バヴォーはプリンストン大学を卒業したばかりで、毎月のポーカーナイトを通じて親交を深めたという。その後、2人は別々の道を進むことになる。

「Google Cardboard」を生んだバヴォー、ピチャイCEOが語るその本質

バヴォーはその後18年間グーグルに在籍し、初期にはGmail、Google ドキュメント、Google ドライブ、企業向けアプリのプロダクトおよびデザインチームを率いた。また、のちに仮想現実(VR)プラットフォーム「Daydream」、通話相手をまるで同じ部屋にいるかのように3Dで再現する次世代ビデオチャット「Starline」を開発した。だが、グーグルのスンダー・ピチャイCEOがフォーブスに語ったところによれば、彼が最も印象に残っているのは2014年に発表された風変わりな製品「Google Cardboard」だという。これは、スマートフォンを簡易VRヘッドセットに変える、段ボール製のDIYキットだった。

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「このプロダクトは、クレイの本質をよく表している」とピチャイは振り返る。「彼には“驚き”への純粋な好奇心がある。まるでガレージで発明に没頭している少年のようなんだ」と話すピチャイによれば、バヴォーとテイラーがSierraを立ち上げたときも、「人生で1度きりのチャンスだと感じていたようだ」という。

クレイ・バヴォー(Photo by Ramin Talaie/Getty Images)
クレイ・バヴォー(Photo by Ramin Talaie/Getty Images)

“テック界のフォレスト・ガンプ”、Google マップからセールスフォースまで

一方のテイラーのキャリアは、“テック業界のフォレスト・ガンプ”と呼ぶにふさわしい。ここ20年のシリコンバレーの転換点の多くに彼の名があるからだ。グーグル在籍時には、のちにGoogle マップとなる初期のウェブインターフェースの試作版を、たった週末の2日間で書き上げたことで知られる。2007年にはグーグルを離れ、FriendFeedというソーシャルメディアを創業。2年後にフェイスブックが約5000万ドル(約76億5000万円)で買収し、テイラーは同社のCTOに就任して「いいね」ボタンの開発にも携わった。

その後、ワープロアプリのQuipを立ち上げ、これをセールスフォースに売却。最終的には創業者マーク・ベニオフとともに共同CEOの座に就いた。また、ツイッターの取締役会会長として、同社の買収をめぐってテスラCEOのイーロン・マスクと対峙したことでも知られている。そして今、彼はOpenAIの取締役会会長を務めている。このポジションを得たのは2023年、同社の経営権をめぐる混乱が業界全体を巻き込んだ直後のことだった。

ザッカーバーグによれば、彼とテイラーはいまでも親交を保っており、アイダホ州サンバレーで開かれるアレン・アンド・カンパニーの年次会議──通称「ビリオネアのサマーキャンプ」──で夕食をともにしたり、散歩しながら語り合ったりしているという。ただし、ザッカーバーグが今年初めにAI分野のトップ人材を積極的に引き抜いた際、「テイラーだけは誘わなかった」と明かした。

「ブレットはフェイスブックやグーグル、セールスフォースといった大企業で長く働いてきた。だから今は、自分の会社をつくることに戻りたかったんだと思う」とザッカーバーグは語る。「私は彼が自分の道を切り開こうとしていることを、心から尊敬している。ただし、人生は長い。きっとまたどこかで交わることになるだろう」。

ブレット・テイラー(Photo by Patrick McMullan/Patrick McMullan via Getty Images)
ブレット・テイラー(Photo by Patrick McMullan/Patrick McMullan via Getty Images)

ChatGPTの衝撃、グーグルを辞めてAIスタートアップ創業を決意

2023年初め、テイラーは「起業家としての原点に立ち返る」と思い立ち、セールスフォースを退社した。その直後、かつてのグーグル時代の同僚バヴォーと昼食を共にした。場所はパロアルトにある高級地中海料理店エヴィア・エスティアトリオ。焼き上げた丸ごとのスズキを前に、2人は数週間前に公開されたばかりのChatGPTの話題で盛り上がった。

「ChatGPTの登場は、まさに“業界のカードを切り直した”ようなものだった」とバヴォーは言う。その衝撃の大きさは、彼を成人してから唯一勤めていたグーグルから引き離すほどだった。「これまでにも何度か起業を考えたことはあった。でも、星がうまく並ぶことはなかったんだ」と彼は振り返る。

2人は昼食を終えるころには「一緒にAIのスタートアップを立ち上げよう」と意気投合していた。ただし、その時点では何をつくるのかは決まっていなかった。彼らはすぐに人脈をたどり、思いつく限りのCEOや経営者に連絡を取って、「あなたのビジネスで直面している最大の課題を3つ挙げるとしたら?」と尋ねてまわった。

東南アジア版ウーバーとも呼ばれるGrab(グラブ)のCEOアンソニー・タンは、顧客対応の課題を挙げた。特に、地域ごとに異なる言語への対応や、利用者、ドライバー、加盟店など多様な関係者との調整に苦労しているという。「あの会話で、すべてが頭の中で一気に形になった」とテイラーは語る。

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翻訳=上田裕資

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