多くのビジネスパーソンが慢性的な睡眠不足に陥っている。OECD加盟国のなかでも日本の平均睡眠時間は最下位。2016年に発表された米国シンクタンク、ランド研究所の試算によれば、睡眠不足による経済損失は年間約15兆円にのぼるという。「眠れない社会」は、もはや個人ではなく社会全体の課題だ。
こうした現状について、長年にわたり睡眠改善の現場に携わってきた一般社団法人日本快眠協会 代表理事の今枝昌子（以下、今枝）は、「睡眠不足の問題は、単に睡眠時間の短さだけではない」と指摘する。
「日本は確かに睡眠時間が短いというデータが出ていますが、それだけでなく、“質”についても意識する必要があります。企業研修などでアンケートを取ると、7〜8割の方が『自分は眠れている』と答えます。ですが、『途中で目が覚めることは？』『日中に強い眠気は？』といった質問を重ねていくと、結果は逆転し、実際には8割近くの方が、眠りの質に何らかの課題を抱えていることが明らかになるのです。多くの人が“眠れているつもり”のまま日々を過ごしている――それが今の日本の現状といえます」
今枝は、心療内科での臨床や企業研修の現場で、働く世代の睡眠課題に向き合ってきた専門家だ。現在は企業の睡眠改善プログラムや研修を監修しながら、「眠れる体のつくり方」をテーマに、自律神経の働きを整え、五感を生かした睡眠メソッドを提唱している。
今枝は、こうした“眠れているつもり”を改善するには、心身がリラックスできる環境をつくることが欠かせないと指摘する。
「大切なのは、日常のなかに“整える習慣”を取り入れることです。呼吸を整える、光や音を意識的に調整する――こうした小さな行動の積み重ねが、結果的に快適な眠りのためのサイクルにつながります」
“眠りの五感“で整える、快眠の基盤
心と体を整えるための習慣について、今枝は次のように説明する。
「朝は決まった時間に起床し、2〜3時間以内に太陽の光を浴びる。そして日中はできるだけ体を動かす。活動量を増やすと体がしっかり熱をつくり、夜にその熱を放出しやすくなります。夜は呼吸を整え、手足を温めて血流を促すなど、リラックスして体温を放熱できる状態をつくっていく。この流れが整うと、穏やかな夜を迎えられるようになるでしょう」
さらに入眠時には、視覚、聴覚、触覚、嗅覚に温感を加えた五感のコンディションを整える環境づくりの重要性を強調する。
「光や静けさ、香り、肌触りのよい寝具など、心地よい状態をつくることが大切です。特に意識してほしいのは“聴覚”ですね。入眠の直前まで最後に残る感覚は聴覚と言われており、わずかな物音が休息の妨げにつながることも。睡眠時は特に、音の刺激を意識的にコントロールする工夫を心がけましょう」
音をマネジメントし、休息を深める
近年、こうした音に対するセルフケアに注目が集まっている。
ベルギー発の高機能イヤープラグ（耳栓）「Loop Dream™」は、睡眠時に装着することを前提に設計されている。
「Loop Dream」は、生活騒音を約27dB低減しながら、目覚ましやアラームなど必要な音は聞こえるように調整されている点が特徴だ。この「必要な音を残し、不快な音だけを抑える」という設計は、過剰な静寂ではなく、安心して休める音環境をデザインするという発想に近い。
今枝氏も、専門家としてこのアプローチを評価する。
「完全に遮音したら起きられないかもしれないという不安があると、かえって眠れなくなってしまう。遮断しすぎない構造は、理にかなっているといえますね」
また、横向きでも痛くなりにくい薄型設計、シリコンと低反発フォームの組み合わせによる高いフィット感も支持されている。製品には4つのサイズのイヤーピースが付属しており、遮音性や装着感を自分の好みに合わせて調整できるのも魅力のひとつだ。
「耳栓は手ごろなものも多いですが、製品ごとに遮音性や装着感が大きく異なります。最初に合わない製品を使うと、装着時の不快感や効果への疑念から継続利用が難しくなってしまう。装着感が自然で、寝返りをしても外れにくいフィット性があること。このふたつが継続的使用のポイントになります」
続けて、今枝は「装着したくなるデザイン性も継続使用に効果がある」と話す。
「睡眠のためのアイテムというと地味で味気ない印象をもたれがちですが、睡眠ケアを“義務”ではなく“自分をいたわるスタイル”として取り入れることが大事だと思います」
一方で今枝氏は、より良い睡眠を求めるなら、就寝前からイヤープラグを装着することも活用法のひとつだと提案する。
「遅くまで仕事で脳がフル回転している状態から、すぐに眠りにつくのは難しいものです。脳は急には休息モードに切り替えられません。そこで、就寝の少し前から音の刺激を減らすことも、休息に向かう流れをつくる助けになります。
例えば、就寝の2時間ほど前からイヤープラグを使って静かな環境で過ごすと、自然に“休息の準備”が整っていきます。睡眠時の着用を習慣化すれば、それ自体が休息へ移る合図、つまり“スイッチ”の役割を果たしてくれるでしょう」
休息の質が、未来の豊かさをつくる
良質な睡眠は、個人の集中力と創造性を引き出し、組織全体のパフォーマンスを高める。そのうえで、メンタルヘルス対策やエンゲージメント向上、離職率の低減といった効果も期待できる。ここ数年、企業は睡眠を「健康経営」「ウェルビーイング」の中核課題として位置づけ、セミナーや可視化ツール、パワーナップの導入など、環境整備に力を入れ始めている。
今枝も、この10年で企業の意識が大きく変わったと分析する。
「以前は『睡眠はプライベートなことだから企業が関与すべきではない』という反応が多かったのですが、いまは“どう休ませるか”を経営課題としてとらえる企業が確実に増えています。眠りの質を高める取り組みを続けている企業では、従業員の表情や会話のトーンが変わるんですね。結果的にチームの空気も柔らかくなる。睡眠は個人の課題であると同時に、組織文化の質を映す鏡だと思います」
こうした変化は、今枝が臨床や研修の現場で実感してきたことでもある。
「ぐっすり眠れるようになると、自信が生まれ、仕事のパフォーマンスが上がる。周囲の評価も変わり、人に優しくできる。そうやってコミュニケーションが深まると、職場の雰囲気も変わっていくはずです」
一人ひとりが質の良い眠りを確保し、心身のコンディションを整えることは、組織の生産性や創造性を高め、結果的に社会全体の活力を底上げする。日本はこれまで「働くこと」に比重を置いてきたが、これからは「休むこと」をどう設計するかが問われている。今枝は「睡眠は自分を守る“盾”のようなもの。その価値を学び、意識的に高めていく必要がある」と強調する。睡眠をはじめとする休息の質を高めることは、個人にとっての自己投資であると同時に、企業や社会にとっても未来への投資といえるだろう。
Loop
Loop製品で最も高い遮音性能（最大27dB SNR）を誇り、静かな睡眠環境を実現する「Loop Dream™」。低音のささやき声（33dB）や雨音（48dB）なども効果的に軽減。人体の構造に基づいた楕円形チップが耳に自然にフィットし、横向きでも快適なつけ心地となっている。加えて、1.5mmの小型化と穴のない設計で圧力を均等に分散し、不快感を軽減。メモリーフォームとシリコンの二層構造により、高い密閉性と柔らかな装着感を両立している。
Loop earplugs
https://www.loopearplugs.jp/
いまえだ・まさこ◎一般社団法人日本快眠協会代表理事。心療内科でのリワーク講師を経て、独自の睡眠改善メソッド「足裏快眠法」を開発。企業研修や講演を通じて、働き世代の睡眠改善に取り組む睡眠改善のスペシャリストとして活躍する。
