トランプ・オーガニゼーションはこの8年間、米国内で大きな不動産取引をほとんど行ってこなかった。だがフォーブスが確認した文書によれば、勢いを取り戻したトランプ家は、再び全米で不動産帝国を拡大しようとしている模様だ。
トランプ氏がテネシー州ナッシュビルに進出か、謎の新会社設立
9月22日、デラウェア州で“ナッシュビル”をその名に含む2つの新会社──「DTマークス・ナッシュビルLLC」と「DTマークス・ナッシュビル・メンバーコープ」──がひっそりと設立された。両社の実態はほとんど知られていないが、名前だけでも注目に値する。この2社はいずれも、トランプ・オーガニゼーションが新会社を設立する際に利用する法人代行会社「コーポレーション・サービス・カンパニー」が登録したもので、少なくとも20件以上のライセンス事業と同じ命名パターンを用いている。
トランプ大統領のビジネスは、テネシー州ナッシュビルでの具体的な計画を正式に発表してはいないが、過去には同地での開発を目指したことがある。もし今回の新会社がその延長線上にあるとすれば、これは少なくとも2017年以降で初の米国内ライセンス契約となり、「トランプの政治的復活」が新たなビジネス機会を生み出していることを示す一例となる。
トランプ・オーガニゼーションの広報担当者はコメント要請に応じなかった。フォーブスは新会社の所有者や目的を確認できていない。
ナッシュビルの新会社は、最近発表されたベトナムやルーマニア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)での他のトランプのプロジェクトと同様に、「大統領のイニシャル+マークス+地名」という命名パターンを採用している。たとえばオマーンのトランプ・インターナショナル・ホテルはトランプ本人の所有ではなく、彼が保有する「DTマークス・オマーンLLC」と「DTマークス・オマーン・メンバーコープ」を通じてライセンス料を受け取る仕組みになっている。
ドバイ郊外のトランプ・インターナショナル・ゴルフクラブも同様に本人の所有物ではないが、トランプは「DTマークス・ドバイLLC」と「DTマークス・ドバイ・メンバーコープ」を通じて手数料を得ている。これらはいずれもデラウェア州で法人代行会社コーポレーション・サービス・カンパニーにより登録されたもので、同様の企業が他にも数十社存在する。
トランプの国際ライセンス事業は約765億円に急成長、米国内事業は停滞
トランプの国際ライセンス事業は、彼が政界に復帰して以降、急成長しており、評価額は1億ドル(約153億円。1ドル=153円換算)から5億ドル(約765億円)へと約5倍に膨れ上がった。一方で、米国内のライセンス事業は停滞したままで、8年前に彼が大統領に就任して以降、新規契約はほとんど成立していない。
トランプが初めて政権に就いた頃、息子のエリックとトランプ・ジュニアは「サイオン」と「アメリカン・アイデア」という2つの新ホテルブランドを立ち上げた。これらにはトランプの名前を冠せず、息子たちは大統領となった父親との距離を取る一方で、父がこれまで主に活動してきたリベラルな大都市の外に狙いを定め、新たな顧客層の開拓を狙ったとみられている。
トランプ・オーガニゼーションの担当者は当時、ダラス、シンシナティ、オースティン、ニューヨーク、ナッシュビルなどで、新ブランドによるホテル開発の契約を9件から39件ほど結んでいると報道陣に説明していた。しかし、実際に形になったものはほとんどなかった。
トランプが得たのは、ミシシッピ・デルタ地方からのわずか3万7000ドル(約566万円)だけだった。この地域は、1970年代に米国へ移住し、トランプが大統領在任中に提携を決めた地元のホテル経営一家チャウラ家の拠点でもある。他の計画とされた案件はいずれも、大統領に1ドル(約153円)の収入さえももたらさなかった。



