クリストファー・コロンブスが1492年、新世界への展望を胸に乗組員と大西洋を渡ったとき、船に積み込まれたのは食料だけではなかった。コロンブスを皮切りに始まった航海がきっかけで生じた現象を、科学者は「コロンブス交換」と呼ぶ。要するに、旧世界と新世界という大陸間で、数多くの種が移動するようになったのだ。
欧州からアメリカには、馬や牛、豚、小麦、さらには天然痘までが持ち込まれた。逆に、アメリカから欧州には、トウモロコシ、トマト、ジャガイモ、梅毒が海を渡った。
そうした種のうち、最も見過ごされがちでありながら、生態学的に極めて大きな重要性をもっていたのが、意図せず船に乗り込んだ欧州生まれのミミズだった。
大半の人間にとって、ミミズは土地の肥沃さや庭土の健全さを示すサインだ。しかし、多くの人が知らないことがある。それは、コロンブスがやって来るまで何千年ものあいだ、北アメリカの大部分の地域にはミミズが存在しなかったことだ。
北米にミミズが長らく存在していなかった理由
最終氷期のあいだ、北アメリカ大陸のほとんどは氷に覆われており、森林が削り取られて、表層土がすっかりなくなってしまった。そのため、たとえ在来のミミズが存在していたとしても、それらは絶滅した。およそ1万年前から2000年前にかけて氷床が後退していくと、残っていた土壌はまっさらな状態で、そこにミミズはいなかった。
最終氷期以降、中西部の北部地域や五大湖の周辺、ニューイングランド地方やカナダの大部分の森林は、有機物を分解するミミズに頼ることなく、独特の生態系を育んでいった。地表は、厚く堆積した落ち葉の層で覆われ、その落ち葉は、菌や微生物の働きでゆっくりと分解された。分解が緩やかに進んだため、スポンジのような落ち葉の堆積層が形成され、湿気が保たれた。そしてそのなかで、苗木が育ったり、昆虫や小動物が住み着いたりするようになった。
コロンブスが到来するまで、雪線(snow line:氷河が継続的に形成される最低限の高度)より北に位置する森林には、ミミズがいなかった。現在では健全な土壌の証しとされるミミズがいなくても、そうした地域の森林は何千年ものあいだ、問題なく繁茂していたのだ。



