サイエンス

2025.11.07 18:00

「コロンブスと共に来たミミズ」が北米大陸の生態系に与えた影響

Shutterstock.com

意図せぬ到来

そして、これらすべては15世紀後半の大西洋横断航海によって一変した。コロンブスが乗っていた船(ならびに、それに続いた無数の船)は、バラスト代わりの土や植物、作物の種、ハーブの苗などを積んでいた。そうした土の中には、欧州原産のさまざまなミミズ種が、卵胞や生きた個体の姿で数多く潜んでいた。例えば、ドバミミズ(学名:Lumbricus terrestris)やカッショクツリミミズ(学名:Aporrectodea caliginosa)、ムラサキツリミミズ(学名:Dendrobaena octaedra)などだ。

advertisement

そうしたミミズは、誰かが意図して持ち込んだわけではなく、土の中に紛れていた。植物や食料、バラストが欧州大陸から運ばれてきたときに、知らぬ間に連れてこられた密航者たちだったのだ。こうしたミミズは、入植者が欧州から持ってきた作物を植えたり、船からバラストを降ろしたりしたときに、肥沃な土壌に突然放たれた。ほかのミミズがいっさい存在しなかったそこは、彼らがすみ着くのにうってつけの場所だった。

ミミズはそうして、徐々に、しかし容赦なく、北アメリカ東部の森へと広がっていった。沿岸部を手始めに、数世紀をかけて、交易や農業、漁業を通じて内陸部へと向かった。ついには、1万年以上もミミズを知らずにいた生態系の恒久的な住人となったのだ。

森林を一変させたミミズ

ミミズが北米に戻ってきたことは、無害どころか、むしろ有益だと思うかもしれない。しかし北部の広葉樹林では、ミミズによって生態系がドミノ倒しのように変化していくこととなった。

advertisement

欧州生まれのミミズは、地面を掘り進みながら、落ち葉の層を急速に食べ尽くしていった。もともとは厚い落ち葉の層があり、湿気を含んで苗木が育っていたが、ミミズ侵入後の木々の根元には、むき出しの土が残された。そのため、土壌の化学的性質と構造そのものが変わってしまった。

ミネソタ大学の生物学者シンディ・へイルは、ミミズが侵入すると森林の生態系がどう変わるのかを記録している。同氏をはじめとした専門家の研究では、エンレイソウやサトウカエデ、アメリカカタクリといった北アメリカ原産の植物種は、落ち葉層が失われると発芽しにくくなることが示されている。

落ち葉層がなくなると、種が乾燥し、幼い根は太陽光と気温変化にじかにさらされてしまう。その結果、森林の下生えが減少したり、苗木が定着しにくくなったりした。

一方、ミミズは、地中深くまで有機物をもたらすようになった。それにより、土壌の養分構成が変わり、窒素が容易に放出されるようになった。このような環境は、かく乱された土壌でよく生育する外来種の植物、例えばクロウメモドキやニンニクガラシなどに有利であることが多い。

ひと言で言えば、欧州からやってきたミミズは「生態系のエンジニア」であり、物理的な方法で、自らの環境を変えていくのだ。そしてその影響は通常、生態系ネットワーク全体に波及していく。ミミズは、微生物の個体群を変え、木の根の成長を促していた菌類を駆逐した。さらに、無数の無脊椎動物や、土に巣をつくる地上営巣性鳥類のすみかを再編してしまった。

コロンブス変換がひそかに残したレガシー

生物学的な観点から見ると、ミミズが北米に持ち込まれたことは、コロンブス交換による、控えめだが広範囲にわたる影響の一例だ。コロンブス交換の歴史は、植物、動物、病気を中心に語られることが多い。しかし、いかに小さくとも、ミミズのような地中で暮らす動物相がひそかに持ち込まれれば、生態学的な歴史の流れが変わり得るのだ。

コロンブスの航海は、人間の社会をつくり変えただけではない。海を挟んだ両大陸の生命が再編成されるきっかけとなったのだ。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事