美術・芸術における人気の面で、フランスの印象派に勝るものはないだろう。空港のギフトショップでも、モネの作品にインスピレーションを得た靴下やゴッホから着想した帽子などが販売されている。
当初は過激な芸術運動とされた印象派だが、1800年代後半の日常におけるさまざまな場面を取り上げた、心地よさを感じさせるスタイルとして、広く受け入れられるようになっている。
多くの人々から愛されるその印象派の画家たちは、食べ物(野菜や果物)がどのように育てられ、収穫され、そして素晴らしいものへと変化するのかという一連の変化に、いち早く関心を向けた人たちだ。そうした動きは、フランスを世界に名だたる美食の国に押し上げるひとつの要因となった。
だが、芸術としての食品というナラティブは、思う以上に複雑なテーマであるようだ。そのことがよくわかるのが、この魅惑的なコレクション、米国で行われている巡回展、「The Farm to Table(農場から食卓へ:印象派の時代におけるアートと食、そしてアイデンティティ)」だといえる。
米国内4都市を巡る展覧会
ニュースリリースによると、アメリカ芸術連盟(AFA)とクライスラー美術館が共同で企画し、エイモン・カーター美術館のコレクション・展覧会担当ディレクター、アンドリュー・エッシェルバッカーがキュレーションを手掛けたこの展覧会は、「19世紀後半のフランスの芸術と美食、国民性の交差点を探求」するもの。
米国の4都市で開催され、クロード・モネやポール・ゴーギャン、エヴァ・ゴンザレス、ピエール=オーギュスト・ルノワールなど、印象派の著名な画家たちの作品50点以上が紹介されている。
西海岸では唯一の開催となったのが、最後の開催地でもあるシアトルだ。会期は、2025年10月23日~2026年1月18日となっており、シアトル美術館(SAM)のアメリカ美術担当キュレーター、テレサ ・パパニコラスが同美術館でのイベントを主導した。
食について話し合う
示唆に富んだこのコレクションには、いくつかの驚くような趣向が凝らされている。見覚えのある作品に描かれているような、着飾って特権階級の恩恵を享受する人々だけでなく、勤勉に働き、欠かせない食材となるものを育てたり世話をしたり、収穫したりする人々、レストランで食事をする余裕がない人たち、たとえあったとしても、そうすることができない人たちにも、同じように関心が向けられている。
その例として挙げることができるのが、収穫が終わった後の畑で、腰を曲げたままの姿勢で重労働を続ける農家の人々を描いたレオン・オーギュスタン・レルミットの1887年の作品、「落ち穂拾い(The Gleaners)」だ。
この展覧会を本当に特別なものにしているのは、時として話し合うのが難しいテーマについての、有意義な対話を促していることだろう。



