時価総額約1309兆円への押し上げなど、報酬案の非現実的な達成条件
9月に公表されたマスクの新たな報酬案は、今後10年間で設定された12の目標を順次達成すれば、同社の持ち株比率を12%上積みするという内容だ。報酬の全額を得るには、テスラが2035年までに累計2000万台のEVを販売する必要がある(これは最も達成しやすい目標とされている)。そのほかにも、100万体のロボットの販売、フル・セルフドライビング(FSD)ソフトウェアのアクティブユーザー1000万人の獲得、100万台のロボタクシーの稼働、時価総額を現在の約1兆5000億ドル(約231兆円)から8兆5000億ドル(約1309兆円)へ押し上げることが条件に含まれている。
マスクは最近のテスラの決算説明会や、先週のポッドキャスト番組『オール・イン』(シリコンバレーの投資家のデービッド・フリードバーグやデービッド・サックス、チャマス・パリハピティヤ、ジェイソン・カラカニスらが司会を務める)に出演した際に、報酬案を批判する勢力や特にISSとグラス・ルイスの両社を激しく非難した。
マスクはこの番組で、「彼らはまるで“コーポレートISIS”だ。基本的にテロリストと同じだ」と発言し、これらの企業が「極左活動家に支配されている」と主張した。
報酬ではなく支配権と主張するマスク、25%の議決権を求める理由
彼はまた、今回の委任状投票が「報酬」をめぐるものだという見方にも改めて異を唱え、「これは自分がテスラを支配し続けるための投票にすぎない」と述べた。「私は25%ほどの議決権を持つ必要があると感じている。それだけあれば十分に強い影響力を持てるが、もし自分が正気を失ったときには解任できる余地も残る」と語り、「たとえば、アクティビスト(物言う株主)に簡単に追い出されるような立場では、ロボット軍を作るなんてあり得ない」と冗談めかして付け加えた。
しかし、マスクが夢想する「ロボット軍」構想はさておき、イェール大学のムクンダ教授もロス・ガーバーも、「テスラを支配下に置くために25%の株式を保有する必要がある」という彼の主張にまったく説得力を感じていない。
「マスクはすでにテスラ株のかなりの割合を保有しており、取締役会も世界で最も彼に従順だと言っていい。つまり、持ち株を25%に増やしたところで本当に支配力が強まるのか? それは理屈に合うのか?」とムクンダ教授は語る。
マスク離脱は非現実的──株価下落が抑止要因
マスクは、今回の投票の結果次第で会社を離れる可能性をほのめかしているが、実際にそうなる可能性は低いと見られている。「わずかに公表されているマスクの財務状況から判断すると、彼が望む結果を得られなければ会社を去るという脅しは、まったく現実的ではない」とムクンダ教授は述べた。「詳細は分からないが、彼はテスラ株をかなりレバレッジして資金を借り入れているようだ。もしマスクが会社を離れれば、企業価値は間違いなく急落する。それは彼自身にとって壊滅的な結果になる」。


