テスラ元支持者も批判、本業EVから逸脱した事業戦略
「私は、以前のテスラの方向性を気に入っていた。マスクが現在進もうとしている道は、人々がもう彼の車を買わなくなったことを受けてのものだ」と語るのは、資産運用会社ガーバー・カワサキ・ウェルス&インベストメント・マネジメントのロス・ガーバーCEOだ。運用資産が約40億ドル(約6160億円)の同社は、少なくとも8000万ドル(約123億2000万円)相当のテスラ株を保有しているが、マスクの報酬案に反対票を投じた。「マスクは、自らが会社に与えた損害について、まったく責任を取っていない」。
2年連続の販売減、米・欧・中でEVシェアを失うテスラ
テスラの第3四半期のEV販売は7.4%増となったが、それは7500ドル(約115万5000円)の連邦税控除が終了する前の駆け込み需要による一時的なものだった。テキサス州オースティンに本社を置く同社のEV販売は、その上昇を含めても今年これまでに約6%減少しており、2025年にはさらに7%の減少が予測されている。テスラの販売は2年連続の減少となる見通しだ。
米国内では、トランプ大統領へのマスクの露骨な支持が、EVの最大市場であるカリフォルニアなどでテスラのブランド価値を損なっている。欧州でも、彼が極右政治家を擁護する姿勢を見せたことで販売が2桁台も落ち込んでいる。2020年以降テスラの収益の中核だった中国でも、BYD、シャオミ、シャオペン、NIOといった地元メーカーの低コストで高性能なモデルにシェアを奪われている。
マスクが取り組むべきものは
マスクがまず取り組むべきなのは、言動を抑えることに加えて、世界のEVの競合を打ち負かす競争力ある新製品を開発し、電池事業やEV充電サービスなど、まだ伸びしろのある分野に注力することだ。
「私は、個人的にも株主としても、今のテスラに強い不満を感じている。持続可能な交通とエネルギーによって気候危機を解決する──その理念を信じて投資した会社が、いつの間にかロボタクシーの提供やロボット開発といった無意味な目標にすり替わってしまったからだ」とガーバーは語る。「私は自分の会社を取り戻したい。テスラは歴史上最も影響力のある気候関連企業になれるはずだった。それなのに、今やゴミのような方向に舵を切っている」。
今回の報酬案に反対する投資家は、長年にわたりマスクを公に支持してきたガーバーのみではない。ノルウェー政府年金基金や各種の公的年金、労組系年金基金も反対票を投じている。議決権行使助言会社のグラス・ルイスとインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシズ(ISS)も反発しており、ローマ教皇レオまでもが反対の立場を示した。教皇は先月のインタビューで、マスクの報酬計画を「富の極端な格差がもたらす社会的病弊」の一例として批判した。


