経済

2025.11.07 08:30

原油価格を左右する国際的な綱引き OPECはなぜ増産するのか

Getty Images

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一般的な認識とは異なり、原油価格は特定の国や企業、カルテルによって決定されるものではない。むしろ、生産者や貿易業者、政策立案者による国際的な綱引きの結果だ。この市場は物理的な要因だけでなく心理的な要因によっても左右され、少数の主要なプレーヤーの行動が数時間のうちに世界中に波及する。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国から成る「OPECプラス」は2日、12月に日量13万7000バレルの小幅な増産を行い、2026年第1四半期は増産を一時停止すると発表した。この動きは、抑制が継続すると予想していた多くのアナリストを驚かせた。表面上、価格が既に下落圧力下にある時に供給を増やすことは直感に反するように思える。だが、これは短期的な価格変動に左右された動きではない。市場占有率と権力を巡る動きだ。

米金融サービス大手モーニングスターが的確にまとめたように、「市場占有率の防衛は価格の防衛より重要」だ。これは示唆に富む発言であり、主要生産者の間でよく見られる戦略転換を示している。

こうした戦略はかつて、2014年と20年にも見られた。サウジアラビアとロシアが原油を増産して高コストの競合相手、特に米国のシェールオイル生産者を価格面で打ち負かそうとした時だ。この時は急激な価格下落を引き起こしたが、OPECプラスは米国の生産増加の影響力が強まる市場で優位性を回復しようとしていた。この戦略は2014年にはほぼ失敗に終わったが、過剰な負債を抱えたシェールオイル生産者の一部を市場から締め出す効果はあった。

価格競争の背後に潜む戦略的論理

一見すると、OPECプラスが意図的に価格を押し下げるのは自滅的のように思える。しかし、過去の事例が示すように、短期的な苦痛は長期的な支配をもたらすことがある。一定期間、低価格を容認することで、OPECプラスは損益分岐点コストが高い限界生産者を市場から締め出すことができる。こうした生産者が規模を縮小すれば、OPECプラスは再び供給を締め付け、価格決定権を取り戻すことができるからだ。

今回のOPECプラスの増産は、米国の原油生産量が1日当たり1370万バレルを超え、過去最高水準にある時期に実施される。これは米国のシェールオイル生産の柔軟性を反映している。生産者は価格が上昇すると即座に生産能力を増強し、価格が下落すると直ちに掘削装置を休止することができる。この「弾力性のある」生産能力により、米国は事実上、世界の原油生産を調整する役割を担うようになった。

だが、この弾力性には代償が伴う。OPECプラスは共同合意を通じて減産を調整できるが、米国の生産者は各自が独立して行動する。数十社が価格上昇に応じて油井を掘削すると、総合的な影響として供給過剰が生じる。シェールオイルが持つ強みである効率性こそが、自らの足を引っ張る原因にもなっているのだ。

OPECプラスはこの力学を理解している。今回、OPECプラスは小幅に増産することで、たとえ多くの加盟国が望む1バレル90ドルではなく75ドルに近い価格を容認することになったとしても、米国にシェアを簡単には譲らないという意思を示しているのだ。

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翻訳・編集=安藤清香

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