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2025.11.13 14:15

「難しい本」が面白い 「わかりにくさ」が人々を動かす時代へ

アーシュラ・K・ル=グウィンのSF小説『闇の左手』の原書と日本語版(撮影=前澤知美)

前澤さん、「難しい本」とはまた面白いテーマをもってきましたね。「難しい」にもいろいろな種類の「難しい」があります。

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例えば、本ではありませんが、役所広司が演じた映画『パーフェクト・デイズ』も一例にあがります。

イタリア人の友人が奥さんとこの映画をみた後、彼から「よくわからないから、一緒にみて日本文化の文脈から解説してくれ」とぼくは頼まれました。奥さんには「ストーリーを期待するから、あなたは難しいと思うのよ」と言われたようですが、彼は納得できなかったのです。

前澤さんがル=グウィンの『闇の左手』の前半で「何もおこらない」がゆえに難しさを感じたのと近いものがあるかもしれないです。ぼくは彼と一緒に初めてあの映画を観ました。そして彼の質問のひとつひとつに答え、彼はやっと腑に落ちたと話していました(再確認のために、彼は3回目を1人でみたそうです!)。

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一般的には、どんな言語であっても、難しい本とは普段見慣れない単語が満載の文章の本を指すでしょう。日本語であれば、画数の多い漢字の熟語が並んでいる文章には構えますよね。そして、この見かけない言葉というのは(ある分野の専門の本であることを除けば)抽象度の高い言葉であることが多く、どのような現実と照応しているのかが掴めないとなかなか意味がわかりません。

また言葉だけでなく、文章の構造も難度に関わってきます。文法的に適切かどうかではなく、ある複雑な状況なり考え方を伝えるときに、結果的に文章構造も複雑になってしまうことが多いです。つまり、修飾や比喩が多用された一見華麗な文章の読みづらさとは別に、記述すべき対象が簡単には理解できないために表現が入り組んでしまうのですね。

以上、いかにも難しさを整理しているようでありながら、実はなんのことはない。自分の知らないこと、経験したことのないこと、これらはいずれせよ難しいのです。先述で専門分野の本を除くとしましたが、専門の本がそれ自体で難しいのではなく、その分野での用語や言い回しを知らないと難しいと感じるのです。その専門家にとってはさほど苦労しない、というわけです。

翻訳小説が難しいと思う人も少なくないです。それはあらゆる叙述が馴染みのないコンテクストに基づいているからです。

読者が東京に住んでいるなら周辺に土地勘があり、主人公が都内から鎌倉に出かけるのは、どういう手段でどの程度の時間をかけて移動し、どのような心持ちで電車やクルマで時を過ごすのかおよそ想像がつきます。主人公は別の気持ちかもしれないですが、いくつかの「とっかかり」をもつことできる。

しかし、フランスに数度しか旅したことのない同じ読者は、パリに住む主人公がノルマンディーの海岸に行く事情や心情は咄嗟に想像しづらい。だから、翻訳小説を手にするのに敷居があがり、その理由は「よく知らない舞台設定は理解するのが難しい」となります。もちろん、知らない世界だからこそ心躍る人もいるわけですが、読者自身の好奇心と意欲によります。

ここで、ひとつのことを思います。

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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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