日本銀行の植田和男総裁は自身のレガシーが脳裏をよぎるとき、ドナルド・トランプ米大統領さえいなければと唇をかみしめていることだろう。
植田の2025年は、「打ち負かされ(trumped)つつある」と言うのですらかなり控えめな表現になる。植田は今年、幸先の良いスタートを切った。1月、日銀の政策委員会は政策金利を17年ぶりの高水準となる0.5%に引き上げた。今ごろには、日銀は金利を少なくとも0.75%、あるいはもう少し高い水準までさらに上げているというのが、市場のほぼ一致した予想だった。
だが、それはトランプが関税戦争を仕掛ける前の話だ。トランプ関税の影響は、賃金の伸びがインフレに追いつかず、家計の需要が鈍化する日本を直撃した。日銀が10月30日に利上げを見送ったことで、植田は後世、2003〜08年に日銀総裁を務めた福井俊彦と同じような評価を受けるのではと思うのは当然だ。
福井は在任中、日銀が2001年から実施していた量的緩和政策の解除を達成した。日銀を国債の大量保有から脱させただけでなく、福井はさらに2006〜07年の金融引き締め局面で、政策金利を0.5%まで引き上げることにも成功した。
しかし、景気が減速すると東京の政治エスタブリッシュメントは反撃に出た。金利を再びゼロに戻すよう日銀に猛烈な圧力をかけた。2008年、リーマン・ブラザーズが破綻したころには、福井の後任である白川方明総裁が、量的緩和の復活(「包括的な金融緩和」)とゼロ金利への再引き下げのプロセスに入っていた。
植田日銀も同様の“逆戻り”を繰り返そうとしているのだろうか。
モルガン・スタンレーMUFG証券のエコノミスト、山口毅は、日銀が12月の会合で利上げに踏み切る確率をおよそ50%と見込んでいる。米国経済や市場が大幅に悪化したり、衆議院が突然解散されたりした場合には、利上げは先送りされる公算が大きい。それでも、現時点では12月の利上げが山口の「最も可能性の高い基本シナリオ」だ。
スコット・ベッセント米財務長官も、日銀は利上げすべきだという確固たる立場を示している。同時に、彼とトランプは米連邦準備制度理事会(FRB)には利下げを求めている。
ベッセントは10月29日、「政府が日本銀行に政策余地を認める姿勢が、インフレ予想を安定させ、過度な為替変動を防ぐうえで鍵を握るだろう」とソーシャルメディアで表明した。
As I depart from Japan it is clear that, as evidenced by President Trump’s remarks yesterday, both countries will have a Golden Age under our two outstanding leaders: @POTUS @realDonaldTrump and @JPN_PMO @takaichi_sanae.
— Treasury Secretary Scott Bessent (@SecScottBessent) October 28, 2025
I look forward to working with the Japanese Minister of… pic.twitter.com/9WjhovUgqf



