中国・上海で行われたアニメ・ゲームファン向けイベント「Bilibili World」。現地に足を運びその熱気を肌で感じてきたエンタメ社会学者の中山淳雄がレポートする。
あつい夏だった。中国発の人気動画プラットフォームBilibili(ビリビリ)主催のアニメ・ゲームファン向けのオフラインイベント「Bilibili World」(ビリビリワールド、以下BW)が、7月に中国・上海で開催された。2017年に始まったこのイベントは、コロナ収束後の中国で爆発的にファンを集める“お化け”イべントへと変貌。来場者数は約21万人(23年)、25万人(24年)と増え、今年は40万人になった。フランス30年近く続く日本文化の総合博覧会「Japan Expo」の25万人を一気に飛び越え、世界最大とも名高いアメリカの「Anime Expo」の40万人と並んだ。コスプレ率の高さも考えるともはやBWは「世界一のアニメ・ゲーム関連イベント」に到達したかもしれない。
世界中から集まった700社の出展と3万人のコスプレイヤーが、広大なスペースに集積する熱気は、かつて経験したことのないものだった。そうしたなかに、日本発の作品やキャラクターブースも所狭しと並んでいた。「初音ミク」「ポケットモンスター」などから、にじさんじやホロライブのVTuberまで、会場全体の3-4割は日本発IP(知的財産)関連だったのではないだろうか。
Bilibiliは“中国版ニコニコ動画”として本家より3年あとの09年に始まった弾幕書き込み式の動画配信サービスで、最初は初音ミクの名前から「Mikufans」と命名され10年に改名した。日本のオタクコンテンツを祖として始まった中国企業で18年にはNASDAQに上場し、20年にソニーの出資が実現するころには、もはや日本企業の中国展開に欠かせないパートナー企業となっていた。動画配信だけでなく、『アズールレーン』や『三国:謀定天下』といったゲームの配信も収益の根幹を担い、今や中国で6000億元(12兆円)ともいわれるACG(アニメコミックゲーム)市場の旗手となり、冒頭のBWの大成功へとつながった。
なぜ、日本発コンテンツが一大市場となっているのか。そもそも今中国では超巨大なIPビジネスのマーケットが立ち上がっている。世界的ブームになったキャラクター「Labubu」で知られる中国のアートトイメーカーPOP MARTが「中国IPグッズバブル」の騎手だ。25年に時価総額6兆円に到達し、絶好調のサンリオ社の3倍の価値になっている。3.4兆円にもなる中国のグッズ市場はこのまま4-5年で倍になる見込み。米国や日本と比べても数倍の規模だ。
日本発IPの市場が爆発した契機は、22年12月のゼロコロナ政策転換だった。ビルのテナントすべてを日本発IPで埋め尽くした上海の「百聯ZX創趣場(通称ZXビル)」が23年1月からスタートし、記録的な売り上げを達成。それを見て、多くの小売店や百貨店が一気に獲得に動き出したのだ。例えば、マンガの輸入代理店だった杭州翻翻動漫グループは、キャラクターグッズ専門の「三月獣(マーチ・モンスター)」というサービスを展開。22年に3億元だった売り上げはたった2年で3倍に。10億元(200億円)到達まで一気に40店舗も拡大したスピードは驚異的である。




