経営・戦略

2025.11.08 09:00

AI時代、競争優位性の定義は変わった──企業は「変化への適応能力」をどう獲得すべきか

Shutterstock.com

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何十年というもの、ビジネス戦略はたった一つの目標を中核に据えていた。それは、「競争上の優位性を確立し、守ること」だ。そこに至る理屈はシンプルだ。自分が誰よりも得意なことを見つけ、それを拡大し、障壁を築き上げてライバルが追いつけないようにすればいい。

業界の動きがゆっくりしていて、優位性が年単位で持続しているあいだは、この戦略は理にかなっていた。だが今では、数カ月しか保たないこともしばしばだ。

最新のデジタル技術の導入により破壊的変化が起きるデジタル・ディスラプションや、消費者が求めるものの変化、そして人材市場の流動化により、競争上の優位性は、短期間しか維持できないものとなった。新たな参入者が、製品のコピーや価格の引き下げ、あるいはデジタルチャネル経由で顧客に直接リーチするといった作戦に出れば、最も強力な参入障壁であっても、あっという間に崩れ去ってしまう。かつては砦のように堅固だった戦略的優位性も、今では一時的なピークでしかなくなっている。

問題は、多くの企業がいまだにこの古いモデルにしがみついていることだ。こうした企業では、戦略を「変化する能力を築くもの」ではなく、「永続的な何かを構築するもの」として扱っている。そのため、すでに誰も見向きもしなくなった地位を守ることに多大なリソースを注ぎ込んでいるのだ。しかしこうした行動は、企業を脆弱にする。企業は、環境の変化に対応できなくなってしまう。

マイケル・ポーターはハーバード・ビジネス・スクールの教授で、競争戦略に関する研究の第一人者だ。同氏による、競争上の優位性に関する理論体系では、時の試練に耐える強みを構築する2つの道として、低コストで製品やサービスを提供して市場で優位に立つ「コスト・リーダーシップ」と、他社にはない独自性を持つ「差別化」を挙げていた。これらの要素は、優位性を生み出す原動力としていまだに有効だが、もはや優位な立場を長期的に保証するものではなくなっている。

かつてはある程度の規模が絶対に必要だった製品やサービスを、テクノロジーが自動化してしまうと、コスト面での優位性は一夜にして吹き飛んでしまう。差別化による優位性も、顧客の好みが急激に変われば、消えてしまいかねない。「持続可能な強み」という考え方そのものが、もはやあてにならなくなっている。

真相は、戦略的優位性が「確保するもの」から、「迅速に進化できる能力」へと、意味合いを変えたということだ。今、ライバルに先んじる企業とは、「最大の資産を持っているもの」ではなく、「最も迅速に適応する能力を備えたもの」なのだ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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