ストーリーの一貫性を高める実践的な方法としては、あらゆる大きなシフトを、1つのシンプルなストーリーに組み入れる手法がある。新たなイニシアチブを始める際には、独立したプロジェクトとして立ち上げるのではなく、企業が掲げる大きなミッション内の新たな1章と位置づけるのがいいだろう。そうすれば、ストーリーが持つ「人の感情を喚起する力」によって、変化がアイデンティティと結びつき、従業員も本腰を入れて取り組みやすくなるはずだ。
「優位性」の定義を見直す必要性
競争上の優位性はもはや、難攻不落の地位を確保することではなくなった。今日における優位性は、「変化を早期に察知し、迅速に対応し、そのあいだ一貫性を保てる組織を構築すること」と定義できる。これを実現するためには、これまでとは異なる指標や思考様式が必要となる。
リーダーは、企業の実力を市場シェアだけで測るのをやめ、その適応能力に注目すべきだ。新たなチャンスに、企業はどれだけ迅速にリソースを振り向けられるか? 新たに発生したシグナルに、チームはどれほど素早く対応できるか? これらの指標は、静的な市場ポジションよりも如実に、企業の将来的なレジリエンスを示してくれるはずだ。
リーダーはまた、「成功」に関する自らの言動も変えていく必要がある。安定していることを称賛すると、配下の社員に対して、「動くことはリスクが高い」という暗黙のメッセージを送ってしまうおそれがある。これに対して、たとえかつては成功していた戦略を置き換えるものであっても、巧みな方針転換について誉めるようにすれば、「変化への対応能力を持つことを期待している」というメッセージを送ることになる。これは、これまでの慣習よりも、現在の状況における妥当性を重視していることを示す言動だ。
個々のリーダーにとってこのシフトは、「戦略とは、正解を見つけてそれを守ること」という考えを手放すことを意味する。むしろ、環境が絶え間なく変化するなかで、新たな正解を生み出し続ける能力を構築することが、新たな時代の戦略となる。真の意味での競争上の強みは、永続性ではなく、素早く変化に対応する姿勢に宿っていると言えるだろう。
この点を理解している企業は、不動のモニュメントを構築しようとする試みをやめている。代わりに作り上げているのは、動き続ける勢いだ。この勢いは優位性とは異なり、長く維持できるものとなる。


