米東部時間11月1日の夜(日本時間2日昼過ぎ)、米大リーグ(MLB)の頂点を決めるワールドシリーズ第7戦の9回土壇場で、ロサンゼルス・ドジャースは同点に追いついた。その瞬間、全米の野球ファンの間で不満の声が高まるのを聞いた。口調こそさまざまだったが、どれもこんな調子だった。「なんてこった、いちばん金に物を言わせたチームがまた勝つんだな!」
トロント・ブルージェイズのファンはこの日、1993年以来となるワールドシリーズ優勝の栄光が第7戦の最終盤になって指の間から滑り落ちるのを目の当たりにした。ボー・ビシェットの3ラン本塁打で3点のリードを築いたものの、その優位は最後の最後で消え失せた。
結局、ブルージェイズは延長11回で5‐4で敗れた。そして、総年俸3億2128万7291ドル(約500億円)、大富豪のオーナー、多くのコーチ陣とコンピューターを擁するドジャースが、野球界の誰もが焦がれるタイトルを2年連続で手にした。さすがだね!……と、こう思うかもしれない。だが、実はそうでもない。
ドジャースの優勝を軽んじるのは造作もないことだ。しかし、あまりにも簡単に勝ったという見方は、安易に過ぎる解釈だ。ファン心理から離れて理性的に考えれば、ドジャースが勝つ運命にあったわけではないことがわかる。
むしろ、彼らは限界まで追い詰められ、それを乗り越えたのだ──札束の力によってではなく、根性と、逆境から立ち上がる粘り強さによって。
実際、ドジャースの選手層は「MLBで最も金をつぎ込んだ」ものではない。今季の総年俸最高額チームはニューヨーク・メッツである。MLBの歴史を振り返れば、資金力で戦力を強化してタイトル獲得に挑むチームは数多く存在した。だが、こうしたチームが必ず勝つとは限らない。たとえばニューヨーク・ヤンキースは2009年に優勝して以来タイトルと無縁だ。
メッツは2024年シーズンも総年俸ランキング1位で、ヤンキースは2位だった。けれども昨年のワールドシリーズを制したのは、メッツよりも5000万ドル(約77億円)以上も年俸総額が少ないドジャースだった。
才能ある選手を「買う」のは簡単かもしれない。だが、その才能を生かして勝利を得ることは、誰にでもできることではない。



