──日本のクルーズ市場をどのようにして拡大してきたのでしょうか?
欧米と比べて日本の市場が「若い」理由は、日本人にとってクルーズ旅行が「非現実すぎる」からです。海外では、クルーズは当たり前の旅の手段ですが、日本は便利で快適な新幹線や、バスや列車、飛行機での旅行が一般的。日本に赴任当時の私のミッションは、船で旅行する習慣を日本に定着させることでした。
そこで一番効果的だった施策は、やはり「新造船」です。人は、イメージできないものに対してお金を払いませんが、大きな船を実際に見ると一気にワクワクします。スケール感と高級感は、クルーズ船の最大のアドバンテージです。私はこのワクワクを頼りに、日本から出発できる新造船の就航をまずは目標にしました。
国際クルーズの売上げを安定させながら、18年8月にMSCスプレンディタを就航、そして19年3月に新造船「MSCベリッシマ」を就航しました。 約5700人が乗船可能できるその船のおかげで、MSCは国内と国際クルーズあわせて、年間10万人に利用いただけるほどになりました。
しかし、ご存知の通り、20年のコロナショックでMSCクルーズも大打撃を受けました。それでも私たちが今日も日本市場から撤退せずにいられるのは、とある日系企業の存在があったからです。
──MSCはどのようにして日本の市場に入り込んで行ったのでしょうか?
MSCクルーズジャパンは数々の代理店と提携していますが、日本でのビジネスを語るにおいて欠かせないのが、ジャパネットの存在です。先述の通り、新しいビジネスを定着させる際に重要なのは「習慣」です。ジャパネットが持つテレビショッピングは、船の旅を日本中に広げる最高の手段でした。
17年にジャパネットの髙田旭人社長と出会って以来、私も何度も本社のある長崎に足を運びました。髙田社長にも船を見ていただいて時間をかけて話し合い、18年、ついにジャパネットにMSCの客船「MSCスプレンディダ」をチャーターいただけることに。私はこの提携を「結婚」とよく周囲に説明しています。
コロナ禍に突入した時も、旅行の需要の回復を見込んで前を向き、一緒に危機を乗り越えてきました。MSCグループには世界中に数多くの提携先がありますが、ジャパネットはMSC史上最大のクライアント企業の一つです。それが長崎のローカルカンパニーであるという事実には、本社の人間たちも驚いています。
──ディズニークルーズが28年に日本で就航するほか、日系企業もクルーズ事業への投資を積極的に進めています。これらの競合の動きをどう見ていますか?
素晴らしいニュースです。クルーズ業界は、市場もまだ小さく参入企業が少ない分、企業同士交流があって親密な関係です。私は「ヘルシーなライバル関係」だと考えています。
手前味噌ですが、ジャパネットとMSCの取り組みが、クルーズ市場全体の躍進に貢献したとも思っています。日本人の習慣とは距離のあったクルーズ旅行を、テレビを通して一般化させたことでクルーズ人口が増加しました。MSCクルーズジャパンの顧客のおよそ20%がリピート客です。業界への投資が積極的になればなるほど、市場全体はさらに盛り上がります。
特にディズニークルーズのおかげで、28年はエキサイティングな年になるでしょう。ディズニーのテーマパークは莫大な数の顧客を抱えています。同社の参入は、クルーズ市場の課題である若年層へもリーチするきっかけとなるはずです。


