バフェットの大ファンが、ビットコインに転向
テネシー州フェイエットビルの農場で育ったベイリーは、幼少の頃からお金と市場に強い関心を持つようになった。アラバマ大学に2009年に入学し、経済学や金融学、数学を学んだ彼は、投資銀行家になるつもりだったという。
「学生の頃はウォーレン・バフェットの大ファンで、バークシャー・ハサウェイの総会には毎年のように通っていた。だから、まさか自分がビットコインを買うなんて想像もしていなかった。それは、当時の自分とは真逆の発想だったんだ」とベイリーは振り返る。
転機が訪れたのは2012年、友人がビットコインに関する記事を送ってきたときだった。ベイリーは最初、ビットコインを詐欺だと思ったが、それを証明できないことに気づき、同年11月、ビットコインの価格が10〜12ドル(約1500~約1800円)前後だった頃に初めて投資した。
そして大学卒業から1年後の2014年、ベイリーは「ビットコイン・マガジン」に参加した。同メディアは、後にイーサリアムを立ち上げるヴィタリック・ブテリンが共同創業したことで知られる。
その後まもなく、ベイリーは大学時代の友人タイラー・エヴァンズとともにBTC Inc.を設立し、同社を通じてビットコイン・マガジンを買収した。
そしてブランド拡大のため、2人は2019年に「ビットコイン・カンファレンス」を立ち上げた。音楽フェスティバルのような雰囲気を持つこのイベントは、今では「暗号資産界のコーチェラ」と呼ばれるまでに成長し、ベイリーをビットコイン界の代表的な伝道者の1人へと押し上げた。昨年ナッシュビルで開催された同イベントには、当時大統領候補だったドナルド・トランプも登壇し、3万5000人の暗号資産の信奉者や投資家、政治家などが集まった。
トランプに接近、大統領選でビットコイン支持層とつなげる
トランプの登壇へと続く道は、ベイリーによれば、2024年にプエルトリコで交わされた「どうすれば大統領がビットコインに関心を持つようにできるか」という会話から始まったという。
「最初に接点を作ってくれたのはポール・マナフォートだった」とベイリーは語る。まもなく、ベイリーのグループはトランプ・タワーでプレゼンを行う機会を得た。彼らのメッセージは明快だった──「ビットコイン支持層の票は大統領選で無視できないほど大きい」というものだ。生粋のディールメーカーであるトランプはその話に興味を示し、面会を受け入れた。ベイリーのグループが票と熱気を連れて来るのであれば、暗号資産業界に耳を傾けようというわけだ。
「トランプはすべてを『アプレンティス』の新シーズンみたいに扱うんだ。常にオーディションを受けているような気分だ」とベイリーは笑う。「『ビットコインのアドバイザーになりたいのか? いいだろう。ほかに3人探して、誰が一番ふさわしいか競わせよう』──そんな調子だった」。
トランプ陣営に約153億円超を献金、大統領の「非公式アドバイザー」へ
ベイリーは業界の有力者をまとめ、トランプ陣営に1億ドル(約153億円)超を献金することで、“オーディション”で勝利した。そのうち2100万ドル(約32億円)は、トランプが「米国を世界の暗号資産の中心にする」と宣言して喝采を浴びたことで知られるナッシュビルのビットコイン・カンファレンスで集められた資金だった。
「トランプは会場入りの時点では、態度を決めかねているようだったが、人々に歓迎されてステージに出ていくと、『ビットコイナーは私のことが好きだ。彼らは私の仲間だ』と言ってくれた」と、今では大統領の「非公式アドバイザー」を務めるベイリーは振り返る。彼の見方では、トランプは「暗号資産だけが他の資産クラスと異なる扱いを受けてきた」ことを自然に理解したのだという(実際、選挙後のトランプは暗号資産で数億ドル[数百億円]を稼いでいる)。
現在ベイリーが目指しているのは、公平な競争環境の実現だ。そしてその先にあるより大きな目標は、ビットコイン企業にとって、米国を「世界で最も好ましい拠点」にすることだ。


