ヘルスケア

2025.11.04 08:46

医療AIの主導権は、ガバナンスを最優先する組織が握る

AdobeStock

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クリス・ボーウェンはClearDATAのCISO兼創業者。クリスはClearDATAのプライバシー、セキュリティ、コンプライアンス戦略を主導している。

AI(人工知能)はあらゆる業界を再形成している。ヘルスケア分野では、その重要性はこれ以上ないほど高い。あらゆる場所のリーダーたちが同じ質問をしている:「まだAIを始めていないなら、どこから始めるべきか?」

誘惑されるのは、予測診断、デジタルツイン、AIによる臨床意思決定支援といった野心的なプロジェクトだ。しかし、適切な基盤なしに高リスクのプロジェクトに突入すると、リソースの無駄遣い、臨床医の不信感、規制当局の反発、最悪の場合は患者への害につながりかねない。

より賢明な答えは?ガバナンスから始め、自信を持って拡大することだ。

今AIガバナンスとデータガバナンスを組み込む組織は、信頼性、コンプライアンス、倫理的イノベーションにおいて業界をリードするだろう。

ガバナンス優先:ツールの前に信頼を

ガバナンスのないAIは、バイアス、不透明性、倫理的な過ちの温床となる。信頼と安全性が絶対条件であるヘルスケアでは、それは容認できない。

セキュリティとコンプライアンス業界での経験から、私はガバナンスが単なる書類作業ではないことを学んだ。それは文化であり、構造であり、プロセスだ。単なるコンプライアンスチェックリストではなく、あらゆるAI決定に信頼性を組み込むものだ。すべてのリーダーに採用を促したいコアガバナンス要素には以下が含まれる:

• HIPAA、GDPR、ISO 42001、そしてEU AI法米国HHSガイダンスなどの新たなルールとの規制整合性。

• 精度、公平性、説明可能性を監視するためのNISTのAIリスク管理フレームワーク(AI RMF)などのフレームワーク。

• AIモデルに供給されるデータセットの所有権、系統、品質基準を定義するデータガバナンス実践。

• 結果を検証する人、パフォーマンスを監視する人、警告を発する人など、明確な役割を含む説明責任。

ガバナンスは官僚主義ではない。それはリスク予防であり、罰金、評判の損害、そして最終的には患者への害から保護するものだ。すべてのAIイニシアチブはここから始めるべきだ。

データの準備:クリーンで、管理され、バイアスを認識したデータ

AIはその背後にあるデータと同じ強さしか持たない。だからこそ、データガバナンスとAIガバナンスは密接に関連している。規律あるデータ実践なしでは、AIを信頼することはできない。

ヘルスケアにとって、それは以下のようなデータを確保することを意味する:

• 高品質:データは重複、不整合、古い記録がないこと。

• 管理された:データは管理責任、メタデータ、系統を持って管理され、トレーニングデータが追跡可能で説明責任を持つこと。

• 安全でプライバシーが保護された:データはHIPAAとGDPRの下で、厳密に管理されたアクセスで、転送中および保存中に暗号化されていること。

• バイアスを認識した:過去の請求データや電子カルテの記録は、しばしば体系的な格差を反映している。ガバナンスはバイアスがモデルに到達する前に検出し、軽減する必要がある。

ヘルスケアはまた、構造化されていない医師のメモ、大規模な画像ファイル、支払者と提供者間のサイロ化されたデータなど、独自のデータ課題に直面している。強力なガバナンスは、その複雑さが信頼を損なうことを防ぐ。

簡単に言えば、悪いデータは悪いAIを生み出す。管理され、信頼されたデータが真の出発点だ。

低リスクのパイロット:走る前に歩く

AI導入は高リスクの臨床的賭けから始める必要はない。価値への最速の道は、患者の安全を危険にさらすことなく効率性を向上させる低リスク・高インパクトのパイロットからくる。

例としては以下がある:

• 事前承認の自動化

• 請求処理の迅速化

• 患者のスケジューリングとコールルーティングの最適化

業界ではすでにパイロットから結果が出ている。Mandolin HealthのAIエージェントは保険確認時間を約30日からわずか3日に短縮し、現在700以上のクリニックにサービスを提供している。12の病院に導入されたスケジューリングプラットフォームは、看護師の残業を32%削減し、スタッフの満足度を27%向上させた。

代替ではなく補完

医療スタッフはAIを脅威ではなくパートナーとして見る必要がある。私の経験では、AIが臨床医を代替するのではなく補完するときに導入が進む。

NHSのAI搭載理学療法アプリはその明確な例だ。これは腰痛クリニックの待ち時間を55%削減し、毎月856時間の臨床医の時間を節約し、臨床医を関与させながらアクセスを拡大した。

AIが権威ではなく助手として位置づけられると、導入が加速し、バーンアウトが減少する。

反復と拡大:初期の成功を基盤に

ガバナンスが整い、データが適切に管理され、パイロットが結果を出すと、組織は以下のようなより影響力の大きい分野に責任を持って拡大できる:

• 予測的な人口健康分析。

• リアルタイムのAI搭載患者エンゲージメントツール。

• 臨床意思決定支援のための説明可能なAI。

この段階的アプローチ—信頼と証拠に基づいた—はAI導入のための持続可能でスケーラブルな道筋を作ることができる。

楽観主義と現実主義のバランス

ヘルスケアにおけるAIは膨大な可能性を提供するが、無制限では深刻なリスクを伴う:

• バイアスは不平等を強化する可能性がある。

• ベンダーロックインにより、組織は高額で柔軟性のないプラットフォームに閉じ込められる可能性がある。

• シャドウAIは、臨床医が未承認のツールを試すと問題を引き起こす可能性がある。

ガバナンスは安全装置だ:

• バイアスは監査、公平性のベンチマーク、多様なデータセットを通じて軽減できる。

• ベンダーロックインはマルチクラウド戦略、データポータビリティ、強力な契約条件によって防止できる。

• シャドウAIは承認されたベンダーリスト、サンドボックス環境、臨床医教育によって管理できる。

AIとデータの両方の優れたガバナンスは、楽観主義を責任に根ざしたものにする。

成功の定義:初期のKPI

ガバナンスは測定も意味する。初期のAIイニシアチブは以下のような指標を追跡すべきだ:

• 手動処理時間の削減(例:事前承認)

• パイロット後の患者満足度スコアの向上

• コンプライアンス準備状況(監査完了までの時間や問題解決を含む)

• データガバナンス成熟度(管理者が割り当てられ、系統と品質チェックを持つデータセットの割合を含む)

本当の問題は、ヘルスケアがAIを採用するかどうかではなく、責任を持って採用できるかどうかだ。ガバナンスを先行させる組織は、単にリスクを回避するだけでなく、信頼されるAIの未来を定義することになるだろう。

forbes.com 原文

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