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2025.11.06 11:00

自動運転の技術を医療へ ウーバー出身起業家が挑む「医師と患者のマッチング」 最適化システム

Shutterstock.com

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ジャスティン・ホーは、ウーバーで自動運転と地図戦略を統括し、自ら創業したライドシェアプラットフォーム「rideOS(ライドOS)」では、スケジューリングやインテリジェント配車、料金設定といった複雑な課題に対応する配車・経路最適化ソフトを構築した。ナビゲーションの専門家である彼が現在挑んでいるのは、迷路のように複雑な診療予約を、患者がより簡単に利用できるようにすることだ。ホーは、iPhoneの初期開発メンバーであり、ライドOSの共同創業者でもあるクリス・ブルーメンバーグ、さらにリアルとバーチャルの診療を組み合わせたハイブリッド診療を提供する「Carbon Health(カーボン・ヘルス)」共同創業者のシーザー・ジャバヘリアン博士と共に、医療現場における患者向け診療ナビゲーションの混乱を解消するため、「Sage Care(セージ・ケア)」を立ち上げた。

医療機関において、患者向け診療ナビゲーションとは、患者を適切な医師へ、最適なタイミングで導くプロセスを指し、紹介状の発行から予約調整、メッセージのやり取りまでを含む。一見単純に見えるが、現実ははるかに複雑だ。例えば、救急外来で「3日以内に心臓専門医を受診するように」と指示されても、実際には6ヵ月先まで予約が取れないこともある。その結果、患者は再び救急外来に戻らざるを得ず、本人だけでなく医療機関にとっても深刻な負担となる。

「ウーバーが登場する以前は、利用者がタクシー会社に電話をかけ、中央システムが最寄りの車両を割り当てていた。医療の現場も、現在はまさに同じ状況にある」と、セージ・ケアCEO(最高経営責任者)のホーは指摘する。

ホーらセージ・ケアの創業メンバーは、資金に制約のある医療機関向けに、システムの効率化とコスト削減を実現することに大きなチャンスを見出している。カリフォルニア州パロアルトに本拠を置く同社は、スティーブ・ジョブズの息子リード・ジョブズが設立したベンチャーキャピタル「ヨセミテ」が主導したシリーズAラウンドで1200万ドル(約18億5000万円)を調達。それ以前には未公表のシードラウンドで「ゼネラル・カタリスト」から出資を受けており、累計調達額は2000万ドル(約31億円)に達した。これにより、同社はステルスモードを脱し、本格的な市場展開フェーズに入った。現在、同社の評価額は9000万ドル(約139億円)と推定される。すでにカリフォルニア州の専門病院複合体ジバ・ヘルス、ミシガン州の大手医療機関ブロンソン・ヘルスケア、ニューヨーク州のホワイト・プレインズ病院などを顧客に持つ。収益規模はまだ小さいものの、2026年には500万ドル(約7億7000万円)に達する見込みだ。

米国では、医療費全体のうち約15〜30%が事務コストに費やされているとされ、AIなどのテクノロジーを活用して医療事務の課題解決に挑むスタートアップが次々と登場している。例えば、今年のフォーブス『次のユニコーン(Next Billion-Dollar Startups)』に選出された「アソート・ヘルス(Assort Health)」や「ハロー・ペイシェント(Hello Patient)」は、AIチャットボットによる自動電話応答サービスを提供している。「我々は、医療機関向けの音声AIを手がける複数の企業を検討した。多くの企業が『既存の自動音声システムをテクノロジーで近代化する』と主張していたが、セージ・ケアだけが『業務プロセスそのものを再構築する』と明言していた」と、ヨセミテでデジタルヘルス分野の投資を統括するマット・ベトンビルは語る。

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編集=朝香実

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