宇宙

2025.11.06 11:30

米国は火星より「月の覇権」を優先せよ、対中国で高まる戦略的緊急性

月面の採掘施設と居住区の構想。NASA提供の想像図(NASA, “Moon Mining Activity” Jan 17 2024)

月面の採掘施設と居住区の構想。NASA提供の想像図(NASA, “Moon Mining Activity” Jan 17 2024)

今や「第2次宇宙開発競争(Second Space Race)」と呼びならわされるようになった中国との競合に、なぜ西側諸国は勝利せねばならないのか。この問題について筆者や多くの識者はここ数年さまざまに論じてきた。米ソがしのぎを削った最初の宇宙開発競争は米国の勝利で幕を下ろし、民主主義的資本主義が技術革新においてソ連式の共産主義を凌駕・超越できることを最も顕著に示した事例の1つとなった。それから60年近くを経て、新たな競争が本格化している。

今度の競争では、世界をリードする米国のイノベーション経済と数兆ドル規模の民間資本の真価が問われている。勝敗の行方はいっそう重大だ。勝者が手にする栄光は、もはや国旗を掲げることでもなければ、足跡を刻むことでもない。世界初の地球外経済の基盤を築き、地球上の生活を支え、宇宙における持続可能な未来を保証する存在となることである。

かつて第3代米大統領トーマス・ジェファソンがルイス・クラーク探検隊を米西部へ派遣した際、その使命は発見であった。そして米航空宇宙局(NASA)の「アポロ計画」と同様に、それは始まりにすぎなかった。ルイス大尉とクラーク少尉が地図に記した未開の荒野は、何十年にもわたる堅実な政策と民間セクターの粘り強い努力によって、今日われわれが知る経済大国へと姿を変えた。

月においても、同じ歴史が繰り返されるだろう。月面開拓は、いちど写真を撮影しただけで実現できるものではない。西部開拓時代に米国のフロンティアとは何かを定義づけた公益と民間企業との連携によってこそ実現されるのだ。中国はこの点をよく理解し、適切に動いている。米国もこれに倣うべきである。

月の未来は、すでに単なる政治イデオロギーの象徴ではなくなっている。問われているのは人類の未来に向けた「戦略的ポジショニング」だ。誰が月面に到達できるかではなく、人類の利益のために誰が月を掌握し開発するかが問題なのである。

次ページ > 本気の中国、二正面作戦は敗北を招く

翻訳・編集=荻原藤緒

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事