宇宙

2025.11.06 11:30

米国は火星より「月の覇権」を優先せよ、対中国で高まる戦略的緊急性

月面の採掘施設と居住区の構想。NASA提供の想像図(NASA, “Moon Mining Activity” Jan 17 2024)

月を優先したとしても、有人探査の可能性を否定することにはならない。まずは20世紀に米国が勝ち取った足場をいっそう固め、21世紀の宇宙においても優位性を維持するということだ。このポジションを中国に譲ってしまえば、近い将来に国家安全保障が脅かされ、今後何世代にもわたって重要資源へのアクセスが制限されることになる。

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月には、量子コンピューティング技術やクリーン核融合発電に不可欠な同位体「ヘリウム3」が豊富に存在する。この月面資源を活用できれば、地球のエネルギー問題や環境課題の解決に役立つだけでなく、深宇宙探査のための先進的な推進力の実現にもつながる。月の両極にある水氷は生命維持と燃料生産を支え、持続的な月面活動とさらなる探査を可能にする。

火星を目指すのは長期的な目標として残しておくべきだが、月はその未来を築くための基盤となる。

月面に刻まれた人類初の足跡の1つ。NASAのアポロ11号計画で宇宙飛行士バズ・オルドリンが残したもの(NASA)
月面に刻まれた人類初の足跡の1つ。NASAのアポロ11号計画で宇宙飛行士バズ・オルドリンが残したもの(NASA)

幸い、必要なツールのほとんどはすでに揃っている。NASAのショーン・ダフィー暫定長官は、月面着陸船計画の縮小という先の決定を覆す大胆な措置を講じたばかりだ。NASAの官民連携の礎となってきたのは競争であり、今後もそれは引き継がれるべきである。

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有人月面探査プログラム「アルテミス計画」と「商業月面輸送サービス(CLPS)」イニシアチブを通じて、NASAは政府の目的と民間のイノベーションや資本を調和させるモデルを構築した。鉱物・水資源が豊富な月の南極への最初のミッションは、米国の存在感を再確立し、持続可能な月面経済の基礎を築くだろう。月資源を用いた核融合発電によるほぼ無限のクリーンエネルギー供給がやがて実現するとの見込みから、すでにベンチャー企業への民間投資の流入は加速している。

第2次宇宙開発競争は、旗を掲げたり足跡を刻んだりするだけで勝てるものではない。地球上と地球を飛び出した先の宇宙空間における生活と商業活動を支える工場、ネットワーク、市場が勝敗を決する。そして、その戦いは月で始まるのだ。資源、アクセス権、データを支配する者こそが主導権を握る。

次のフロンティアは、もはや地平線上にはない。それは地球の軌道上にある。

forbes.com原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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